第三話: The Tokyo's day to burn blue−15


それから夜、さらに朝になっても、爆撃が止むことはなかった。途中で一度韓国軍がモールに来ていたが、一部の市民を乗せて出ていっただけで、まだモール内には大勢の市民が残っている。どうやらミサイルによる爆撃が起きているということはギリギリSNSで分かったが、それもすぐにネットが断線してスマホが使えなくなった。
翌朝になってミサイルの雨が少し小康状態になったところで、佐久早は決断する。


「移動するぞ」

「え、どこに?」

「とりあえず1号線を西に向かう。日本大使館目指すぞ」

「…分かった」


基本的に佐久早の提案に反対することはない古森はすぐに頷くと、疲労困憊して床にしゃがむ人々の合間を縫って歩いて行き、地上へと上がった。吹き抜けのエントランスはガラスがすべて割れており、天井パネルが落下して床に散らばっている。上階の爆発で散らばったらしい瓦礫や書類がビルの前に散乱しており、建物が面する大通りには戦車や装甲車が行き交っていた。国旗は韓国のものがほとんどで、一部、米国や英国のものもあった。

ビルの前から、二人は奨忠壇路(チャンチュンダンロ)を北に進み、川を渡って大通りの交差するところへやってきた。大きな東大門が聳える観光名称であるが、東大門は半分がミサイルの直撃によって崩壊し、楼閣部分が潰れて地面に崩れ落ちている。その周辺には地対空ミサイルが並び、秋の朝の抜けるような高い青空を駆けるミサイルを迎撃するべく上を向いていた。

意外にも、逃げるために走る市民の姿があちこちに散見される。爆撃が始まった昨日はおとなしくしていたのだろうが、いつまでも終わらない中でしびれを切らして多くの人々が外に出て自宅を目指していた。そのためか、韓国軍も国連軍も市民に対して注意することはなく、逃げ惑う人々を横目にひたすら迎撃に専念していた。

地対空兵器の裏を通って地下鉄1号線に向かう。駅構内に入ると、軍人と市民、警察の姿が入り乱れており、大半の市民は床に座り込んでいた。その合間を歩いてホームまで下りると、線路を確認する。
やはり同じことを考えていたようで、多くの市民がトンネルを歩いていた。このソウル地下鉄は、有事の際には核シェルターとしても機能すると言われており、ミサイルが降り注ぐ地上ではなく地下鉄を移動することを選んだ人々は大勢いた。もはや群衆ですらある人々の中に混ざるようにして、二人は線路に降り立った。
背の高い二人はよく目立つが、すぐに暗闇となって互いの姿も見えにくくなる。不安そうな人々の喋る早口の声や、転んだことによる小さな悲鳴、スマホのライトが照らす武骨なコンクリート。それらはあまりに非日常的で、佐久早は暗闇でくらりと目が回りそうになるのを必死に堪えながら足を進めた。

やがて鐘閣(チュンガク)駅に着いた二人だったが、何やら人々は首を横に振って線路に戻っていくのが見えた。ホームにはほとんど人がおらず、駅に出ようとしていた人々は諦めて足を先に進めていく。


「行けないっぽい…?」

「…そうかもな」


目に見える範囲では、壁に亀裂が入っていることくらいしか分からない。しかし、別の外国人が英語で尋ねているのを盗み聞きしていると、どうやら地下1階の改札階が地上の爆撃によって崩落しており、地上に出られないらしい。日本大使館はここから歩いて行く必要があったが、出られないなら隣の駅から迂回するしかない。

さらに二人はトンネルを進み、大きくカーブしてから、市庁(シチョン)駅に到達した。その名の通りソウル市役所がある場所で、ソウルの中心地の一つだ。
適当な出口から出れば、地上に出てすぐソウル市役所が目に飛び込んできた。日本統治時代に建てられたモダン建築の旧庁舎の後ろには、曲線を描くガラス張りの新庁舎がある。
やはりというか、最初の爆撃の段階で市内の主要なエリアは標的になっていたようで、新庁舎の建物も天井が崩落してガラス張りの壁面は砕けて路上に白い雪景色のようになっていた。周囲の雑居ビルや高層ビルも数フロアに渡る穴や押しつぶされた天井などから煙が上がっている。


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