第四話: Laufet, Brüder eure Bahn−1
第四話:
Laufet, Brüder eure Bahn
静岡県御殿場市・富士駐屯地。
新宿から駐屯地に戻ってきた第1魔法科大隊のうち、意識を失った金田一を含めほぼ全員が夜には回復していた。ただ一人、伊吹だけが出血多量により、佐久早たちの拘束後に意識を失って昏睡している。
夕食を終えて、牛島は病室でまだ眠ったままの伊吹の様子を確認してから食堂に戻る。そこには案の定、牛島を待っていたのか全員が残っていた。伊吹の様子を確認する役割が自然と牛島に固定されていたのだ。
「どうだった?」
牛島に対して確認するのは及川で、これも自然と及川に任された役目のようなものだった。食堂の入り口で全員を見渡して牛島は答える。
「安静にしている。まだ意識は戻っていないが、朝方には普通に目覚めるだろう」
「ま、そうだろうね」
特に驚きも感慨もなく、事実の再確認に終わって及川は水をごくりと飲む。再び沈黙が落ちた食堂には、むさ苦しくも多くの男たちがいるはずなのに、痛いほどの静けさに包まれていた。
「…おい幸郎、血ィ出てんぞ」
そこに落ちた声。全員がちらりと声がした方を見ると、星海が向かいに座る昼神の手をつついていた。握り締めた拳から垂れた血がテーブルに落ちていて、昼神が静かに強い感情をあらわにしていたことに周囲は驚いていた。
「……伊吹に合わせる顔がない」
「…まぁ、こればかりは気にするなとは言えねぇな」
星海自身はすでに吹っ切れているようで、伊吹のためにも前を向かなければならないと考えているようだ。同じように、洗脳されて迷惑をかけた者でも、星海のようにすでに前を向けているのは天童や瀬見など第二小隊の五色を除くメンバーや、赤木、アラン、小見、西谷、田中など根本的に明るい性格をしている者たちだ。
一方で昼神のように思いつめた表情をしているのは、二口や赤葦、金田一、リエーフ、月島、侑といった洗脳が長引いた者や、黄金川、国見といった民間人に犠牲を出した隊員である。特に二口と黄金川、赤葦による攻撃では数百人単位の犠牲が出ている。
今も食堂のテレビは、今日の午前中に東京を襲ったテロを大々的に報じ続けていた。
東京同時多発魔法テロ事件と称されるようになったこの事件では、新宿、渋谷、品川、有明でテロと戦闘が起きた。
渋谷での死者はスクランブル交差点付近を中心に105人、品川での死者は品川駅港南一帯で32人、有明の死者はGMExの会場であるビッグサイトで46人となっている。
そして新宿では、最初のテロによる死者は三丁目交差点と五丁目交差点、アルタ前広場などで計118人だった。しかしその後の第1魔法科大隊の戦闘によって、二口と黄金川が破壊した歌舞伎町一番街や東宝ビル付近で185人、国見や京谷が戦った区役所周辺で16人、赤葦や木葉、鷲尾が攻撃した伊勢丹で77人、合計で278人が死亡した。
その後の佐久早たちとの西口高層ビル街での戦闘では23人が死亡しており、洗脳が解けたあとの戦闘では奇跡的に死者は出なかった。
こうして、東京都内での死者は総計602名に上り、そのうち4割以上が第1魔法科大隊によって命を落とした数となった。
品川駅と新宿駅がその機能を停止したことで都内の鉄道は大打撃を受けており、新宿の街が壊滅的な被害を受けたこともあって、被害総額は1兆円を超え、経済損失は数千億円単位だと見積もられている。
当然、これだけの被害を出したことで第1魔法科大隊、ひいては伊吹への批判の声が日本国内で急激に高まっており、国内外で洗脳を恐れて魔法科兵の迅速な解体が叫ばれるようになっている。各国も懸念を示しており、国防軍と日本政府は頭を抱えているようだ。
今も武田と烏養は説明のために市谷に詰めており、陸軍の広報はパンクしている。