第四話: Laufet, Brüder eure Bahn−2



「…黄金川君、大丈夫?」


作並が声をかけた黄金川はずっとテーブルに伏せており、先ほどまで泣き腫らして赤くなった顔をしていた。その隣にいる二口は目元を抑えたままテーブルに肘をついて顔を隠している。
作並に返せない黄金川の通路を挟んで隣にいる赤葦は、沈痛な面持ちでずっと俯いていた。隣に座る木兎すら、普段のひょうきんさは鳴りを潜め、赤葦の背中を擦っている。赤葦たち第三小隊の隣には、第七小隊と第一小隊が混ざって座っており、月島に山口が、リエーフに夜久がそれぞれそばについていた。

昼神たちの隣にいる金田一と国見は揃ってタオルを目元に当てていて、岩泉が二人の間に座って肩を組んでいた。岩泉なりの寄り添い方なのだろう。

そして牛島の正面にいた第八小隊の侑は、牛島の方をそっと見上げた。


「…俺らは、どうやって責任取ったらええんでしょう」


いつもの明るさからは想像できない憔悴した様子に、治もどうしたらいいか分からず困惑していた。牛島は侑に聞かれたことを少し考えてみたが、安直な答えしか浮かばない。


「責任は国防軍がとるものだ。俺たちではない」

「…まぁ、牛島さんはそう言うやろて思てたわ」


侑は小さく笑ってから、ため息をついて顔を伏せてしまう。牛島とて、侑が聞きたいことがそういうことではなかったのを理解している。だがこの質問にはこう答えるほかないだろう。

日本に対して責任を取るのは国防軍で、そして国防軍内部で責任を取るのは第1魔法科大隊の全員といったところだろう。しかし、迂闊なことをして第1魔法科大隊が敵に寝返ったら、という恐怖が政府と幕僚にはあるため、そこは曖昧になるかもしれない。
牛島は侑が会話を終えたつもりでいるであろうことも理解しつつ、あえて口を開いた。


「…一応、佐久早ら幹部を捕えたという実績はある。伊吹が東京に展開していなければ数千人単位の死者が出ていただろう」


逮捕された佐久早、古森、百沢、大将、広尾、沼井、潜は現在、海軍の潜水艦に乗って太平洋の海底にいる。潜水艦を破壊して逃げ出しても深海から上がる術がないため、強力な魔法科兵を拘留するためにこれが最大限の措置だった。

また、監視として桐生と臼利をあてている。さらに、こちらから連絡を取れた雲南と猯、さらに二人から呼び出した照島も日本に帰国することを要請しており、すぐに彼らもやってきて潜水艦内での監督にあたるだろう。


「それらも考慮すれば、形ある責任を取らされることはないだろうが…」

「……?」

「…国防軍上層部では、今回の一件について、そして一連のテロなどについて、直接伊吹を記者会見の場に立たせる方向で議論しているだろうな」

「え……」


全員が驚いたようにするのが手に取るように分かる。これは牛島が溝口たちから聞いたことで、恐らくこの記者会見が実現するはずだ。

会見の意図に気付いた及川は、顔をしかめる。


「…それってつまり、伊吹を矢面に立たせて世論様の批判の捌け口にすることで、『精神的に』責任を取らせるってわけ?」

「あぁ。今回の件で陸軍幕僚長と国防軍統合幕僚長、国防大臣は辞任するだろうから、魔法科兵に対してできる限り落とし前をつけさせるために会見を開くんだろう。政府としても、諸外国に対して伊吹の顔と言葉を示すことで透明性を持たせるつもりだ」


都合のいいように扱われるのだと理解したメンバーは、当然、怒りを滲ませていく。それを見て牛島は手を上げて制する。


「俺もこの会見に出るつもりだ。そして、伊吹が一人責められるようなことにはしないと約束しよう」

「ウシワカ…?」


及川は意外な言葉に目を瞬かせた。他の隊員もそうだ。


「俺にも果たすべき責任がある。それだけのことだ。だからお前らは安心して、ただ伊吹のために努力を重ねて前を向くんだ」


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