第四話: Laufet, Brüder eure Bahn−4
テロ翌日の8月26日月曜日の夜、この会見に参加するのはここにいる3人のほかに、国防大臣の雲雀田も出席する。
すでに首相と東京都知事の会見は昨晩行われており、状況の報告と「被害の全容の把握に努める」という無難なしめくくりのみ行った。各メディアもこれらの会見については形式的に触れているに過ぎない。
日本中、引いては世界中の注目を集めるのはこの会見だ。ついに、世界で唯一の戦略核兵器級の魔法科兵がメディアの前に姿を公式に現すのだ。人物像に迫る特集など履いて捨てるほどこれまで行われていたが、伊吹本人への取材が行われたことは一度もない。そのあたりは国防軍もよく守ってくれたと思う。
明日は、国防省でいつもの防衛記者会による会見があり、雲雀田大臣と、海軍幕僚長が兼任している統合幕僚長、そして陸軍幕僚長の3名が辞任することが発表される。辞任する予定であることそのものはすでに報道されているため、単なる挨拶だ。
伊吹が勝手に展開して勝手に戦闘し犠牲者を出したことに関して、最も大きな会見に臨ませることで落とし前をつけさせるという意図がある。引責辞任させられることになった幕僚たちはせめて守られた場で挨拶をすることになり、責任を負いたくない政府と東京都も伊吹たちに世論の「感情的責任」を背負わせて自分たちは早々に引っ込むといったところだ。
「…君たちには申し訳ないことをしたね」
沈黙の控室。大臣の秘書も控える部屋に、雲雀田の声が落ちた。烏養はすぐに「いえ」と背筋を伸ばす。内閣総理大臣に次ぐ2番目の決裁権を持つ人物だ、当然である。
「普通科連隊を出そうとする陸軍との間で折衝を続けていたんだが、間に合わなかった。なんとか事態が発生してから、東京都の要請に対して魔法科大隊を展開するようこぎつけた。もっと早く全隊員が展開していればこんなことにはならなかった」
どうやら雲雀田自身はこうした事態を想定していたようだ。大臣にしては若々しい黒い髭の特徴的な男性で、低い声はダンディ然りといった感じの人物である。優秀な人物でもあるため、引責辞任後の内閣ではまた新たなポストが与えられるだろう。
「私の進退を含め、国防省と国防軍の今後の対応はすでにリリース済みだ。今日は分かっていると思うが、君たちへの、特に朝倉陸尉への質問が集中するだろう」
「……分かっています。これだけの被害を出したんです、スケープゴートくらいにはなります」
伊吹はそう言って、膝の上で拳を握る。こんな経験は当然初めてで、自分の発言の影響の大きさを考えると、記者からの質問に対して間違いのないよう答えられるか不安で緊張するのは確かだ。
結局、伊吹の目が覚めたのは今日の昼で、貧血の中でなんとか夜には会見に臨めるよう調整していたため、牛島とは会話できていない。
テロ直前まで牛島との間に大きく開いた距離に苦しんでいたが、それを解決するような会話は特にないまま今に至る。こんなところでプライベートな話をするわけにもいかないため、牛島に対して伊吹は一方的に少し気まずさを感じていた。
そのため、こうした状況にあって、自分は一人で立ち向かうのだと、そう意識していた。
やがて時間となると、スタッフに促され4人で連れ立ってホールへ向かう。美しい装飾の扉が開かれると、雲雀田を先頭に烏養、牛島、伊吹と続いた。途端に、広大なホールに大量のフラッシュが炊かれる。
250人が整然と並べられた椅子に座り、一番後ろにはテレビカメラが大量に並び、会見用の席には白いテーブルクロスに無数のマイクが束ねられていた。
高い天井はこのビルの象徴であるドーム天井の吹き抜けで、高さは3階分になる。このフラッシュの向こうは1億の日本国民でだけではなく、世界中の人々がリアルタイムで伊吹たちを見ているのだ。日本は18時、ニューヨークは午前5時でフランクフルトは11時だろう。アジアや欧州を中心に、月曜日から多くの人々がテレビを凝視している。