第四話: Laufet, Brüder eure Bahn−5



『それでは会見を始めます。初めに、雲雀田国防大臣から本会見についてお話しいただきます』


余計な前振りはないのが普通だが、今日については本題であるはずのこの時間が前振りのようになっているだろう。ここにいる者たちの本題は伊吹への問答であって、すでに首相の口から語られた内容をなぞる雲雀田の発言には関心がない。


「まずは、今回のテロ事件において、国防軍の行動によって多くの民間人に犠牲者を出してしまったことをお詫びさせていただきたいと思います。誠に申し訳ございませんでした」


そう言って雲雀田が立ち上がるのと同時に、烏養、牛島、伊吹もともに立ち上がって、タイミングを揃えて頭を下げる。形式的に、フラッシュが大量に炊かれる。最初にこういう謝罪が入るであろうことは全員の暗黙の了解である。

長々と頭を下げたあと、雲雀田が顔を上げて腰を下ろすと、少しだけ遅れて伊吹たちも席についた。雲雀田としても、今後の進退を考えればなるべく余計なことは喋りたくないはずだ。
それでもゆったりとした喋り方をする雲雀田は、まるで少しでも時間を短くしようとしてくれているようでもあった。大臣というわりに雲雀田が見せる姿勢に、伊吹は驚きつつ純粋に嬉しく思う。

確かに伊吹はこの場で一人なのかもしれない。しかし、こうして小さくても配慮してくれる人はいるのだ。

一通り雲雀田が喋ると、司会のマイクが再び入る。


『ありがとうございました。それでは次に、東京同時多発魔法テロ事件における、国防陸軍第1魔法科大隊の行動について烏養三等陸佐より説明があります』


これも前振りといえばそうだが、伊吹に質問をするためにダイレクトに重要なものだ。誰も、東京でどのようなことが行われていたのか、大雑把にしか理解していない。
メディアにすでにリリースされているのは、「事前にテロ情報を魔法科大隊が察知していながら国防軍が事前展開をせず、一部の隊員がプライベートという体裁で都内に赴き、テロ発生時にバイスタンダーとしての行動を起こした」という内容だ。幕僚たちが引責辞任するのはこの辺りのことが原因となっている。

世論は、「魔法科大隊を最初から出さなかったことの責任」と「政府や都知事の要請がないにも関わらず事実上の作戦行動を無断で起こしたことの責任」の両方が問われている。前者についてはそれこそ都知事の要請がなかったため、後者についてはプライベートであって法律上の問題はないものの文民統制の価値観にそぐわないため引責辞任、という形だ。

これらのことについて、烏養の口からは作戦概要や伊吹たちの行動の推移を詳細に説明した。会見席の横に置かれた大きなスクリーンには、都内の地図と行動ルート・戦闘内容が図示されている。

これも一通り終えれば、いよいよ会見の雰囲気が変わる。司会がマイクを握り、一瞬だけこちらに目くばせした。


『それでは皆様からの質疑応答に入ります。ご質問がある方は挙手してください。指名された方は、所属を明らかにした上で簡潔にご質問をお願いいたします。…はい、それでは前の方』


ついに始まった。
指名された男性が立ち上がると、マイクが置かれた通路中央に向かい、マイクスタンドの前に立ってこちらを見据える。


『JBA(Japan Broadcasting Agency)の矢代です。朝倉一等陸尉にお伺いします。今回の作戦行動は、魔法という普通科で言うところの銃火器にあたる「武器」を、文民の要請なしに無断で使用したものでありシビリアンコントロールに反します。この点について認識はありましたか。また、どうお考えになりましたか。合わせて、犠牲者の半分近くを占める270名以上の死者を出したことについて、防ぐ手立てはなかったのでしょうか。犠牲者の遺族の方に対してどのようにお考えですか』


よくテレビで見ていた怒涛の質問である。忘れないよう手元のメモに質問された内容を素早く書き留めてから、伊吹は乾いた口を開く。目という目がこちらを見て、カメラというカメラがこちらを向いている。マイクに拾われないよう息を吸った。


「…シビリアンコントロールに反する行動であったことは認識しておりました。そのことを糾弾されることも承知で都内に展開しました。犠牲者について、まずは我々の行動によって多くの人命を奪ってしまったこと、国民に対して武力を向ける結果となったこと、改めてお詫び申し上げます。防ぐ手立てについてですが、今回使われた直列徴発洗脳魔法は極めて複雑かつ高度な魔法であり、既存の国防軍、ひいては世界の最新のシールド兵器では防ぐことのできない魔法でした。魔力量の関係から、私を含め、隊長格の数人だけしか耐えることのできないレベルでもあり、本作戦においては防ぐ手段は存在しませんでした」


大将と広尾は、魔力に反応する伊吹たちのシールド兵器をかいくぐるため、徴発魔法を使用した。シールド兵器の持ち主の魔力を使って魔法を展開することでシールド兵器を通り抜けたのだ。ここまで高度な魔法を直列展開するとは想定外だった。


255/293
prev next
back
表紙へ戻る