第四話: Laufet, Brüder eure Bahn−7
ただでさえ魔法テロによって魔法科兵への風当たりが強まりつつある中で、伊吹の勝手な行動によって犠牲が出たという事実はすべての魔法科兵にとってネガティブな影響を及ぼす。それは事実だ。
外国人記者が下がると、また別の女性が指名されて出てくる。すでに会場の空気は、誰もが予想していた通り、伊吹に対して責める質問が連続していく雰囲気になっていた。それを見に来たと言っても過言ではないだろう。
『列島新聞の小川です。朝倉一等陸尉に質問です。CHREUSはあなたについて、国連への引き渡しや殺処分を求めています。現状、魔法科兵を普通の人間に戻す技術はなく、脅威となった魔法使いはすべて死ぬまで脅威であり続けます。あなたを含め、世界の人々に不安と恐怖を与え、これからは洗脳によって都市や国家、あるいは世界すらたった一人によって滅ぼされてしまうというリスクを世界に負わせる魔法科兵というものを、早急に処分するよう求める過激な声に対して、自身が奪った命を踏まえてどのようにお考えですか』
あからさますぎる質問に対してまた会場が少しざわつく。世界の人々の安寧のために死ねという意見に対してどう思うか、自分が殺した人間のことを踏まえて考えろというのは、暗にお前は死に値すると言っているようなものだ。
なんとか虚勢を張って、伊吹は冷静に保ってきた。どんなことを言われても感情を動かしてはならないと。
しかしこうして、伊吹の存在そのものを疎む声がますます大きくなっており、ティクリートや東京で奪った人々の命とのバランスを取れと言われているのだとはっきり実感すると、それも揺らぎそうになる。伊吹のことを望む者など誰もいないのではないか、という気になってくる。
「…っ、えー…私の魔法によって失われた命については、私の罪です。あくまで私の非であって、他の魔法科兵は関係がありません。先ほど申し上げた通り、母国のために戦ってきた彼らのことまで非難しないでいただきたいと思いますし、私に生きる資格がなかったとしても、彼らの自然権まで否定しないで欲しいと考えます」
とにかくせめて、伊吹によって他の魔法科兵の立場が危うくなることだけは避けたかった。魔法科兵になったら最後、魔法を使えなくする技術が生まれるまで、どれだけ拒否しても軍を抜けることは許されなくなる。そのような宣誓書を書いて、どの国も兵士が出願するのだ。
そういう覚悟を持って努力してきた彼らまで否定されて欲しくなどなかった。
続いて、別の男性がやってくる。メガネを反射させ目が合わない。
「大日本放送の五十嵐です。朝倉さんにお聞きします。あなたに世界が滅ぼされてしまうのではないか、もしくはあなたを崇拝するVASNAによって殺されてしまうのではないか、日本だけでなく世界中がそのような不安の中にあります。人々を恐怖させながら変わらず国防軍として前線に立って生きていくおつもりなのでしょうか。人々の不安を和らげるためにできることはなんだとお考えでしょうか。また、あなたは元はNGOとしてPKOにも参加されていましたが、なぜそのわりに躊躇なく敵兵を殺害することができたのでしょうか」
伊吹はぐっとテーブルの下で拳を握る。怒りではなく、ともすれば決壊しそうな感情をせき止めることができなくなりそうだったからだ。
このままのうのうと生きていくつもりなのか、元から人を殺すことに抵抗がなかったんじゃないのか、そういう意図の質問であり、伊吹の人格を否定するものである。
ここで感情を吐露して激昂でもしようものなら、やつらの格好の餌食となる。危険な人物として報じて、伊吹を日本から追放して国連管轄下に置くことを要求することができる。
世論が激しく動けば政府もNoとは言えない。幸い、伊吹がおらずとも牛島たちイニシャルセブンも国家を滅ぼすくらいならできるレベルの魔法科兵だ。軍事力から見ても、伊吹の穴は大きいが、残った部分だけで容易に国防が可能なのである。むしろ、伊吹がいることで発生する周辺国との軋轢をなくすことすらできるだろう。