第四話: Laufet, Brüder eure Bahn−12


静岡県御殿場市・富士駐屯地。


会見場を飛び出して日比谷公園で互いに気持ちを通じ合った伊吹と牛島は、その後こっそりと駐屯地に戻った。烏養と武田は市谷の国防省で事後処理に追われている。正直かなり申し訳なかったが、烏養も武田も「これくらいはやらせろ」という一点張りだった。

そうして駐屯地に戻ってくると、出迎えた第1魔法科大隊は思い思いのリアクションをしていた。まず牛島の突拍子もない行動に爆笑する天童などの第二小隊のメンバーや黒尾、及川、木兎などの騒ぎがあってから、田中や西谷、山本など男気のあるメンバーからの賞賛、会見で不愉快な質問をした記者への罵詈雑言を述べる花巻や松川などがやいのやいのと続いた。
そして、とりわけ伊吹を傷つけてしまった侑や昼神、二口、赤葦などのメンバーについては、牛島がああやって伊吹を助け出したことで感謝しつつ、自分の罪悪感などの感情に一定の整理をつけてややすっきりとした顔をしていた。まだまだ完全に吹っ切れるところまではいかないだろうが、大きな一歩である。

さらに、昼神と侑は伊吹が「若利さん」と呼んでいるのを見て察したようで、牛島に「頼みます」と言っていた。牛島は「当然だ」とだけ返していたが、二人はそれで満足そうだった。

「一度は裏切っちゃったけど、あのとき言ったことはこれからも変わらないからね」と昼神はこっそり二人きりになってから告げてくれて、昼神との間にも蟠りを残さず先に進むことができそうだ。


そうして夜を過ごして翌朝、朝食を取りに食堂へ行くと、先に来ていた者たちがテレビに釘付けになっていた。当然、テレビも新聞もネットニュースも昨晩の会見のことで持ち切りである。
伊吹が来たことに気付いた西谷は、「見てみろよ!」とテレビを指さした。

言われるがままにテレビを見ると、映像にはパリの街並みが映っている。それを背後に記者たちのマイクに応じている老人は見覚えがある。モンマルトルで話した、パリ市長だ。

記者の質問とそれに対する市長の回答が日本語の字幕で画面下部に出ている。


『今回の決定は異例のスピードでの議決でしたが』

『テロ対策として臨時招集されていたものの、パリでのテロは起こらず時間があった。この街を救った人物のためだ、行動は当然早くなる』


何事かと思って右上の見出しを見てみると、伊吹は驚きのあまり動きを止めた。


『パリ市議会、朝倉伊吹陸尉に名誉市民号授与』


なんと、パリ市は伊吹に対して名誉市民号を授与したようだ。まだ軍からは連絡が来ていないが、恐らく在日フランス大使館も国防省も国防軍も大騒ぎになっているのだろう。こんなことはまったく事前に連絡もなかった。


『名誉市民号が送られたことの意義についてどうお考えですか』

『我々は彼に救われた。彼の魔法がなければ、パリは18区だけではなく多くを失っていただろう。恩人がもしも、日本で生きづらく感じているのであれば、パリはいつでも朝倉大尉の第二の故郷となって迎え入れよう。そういったメッセージだ』

『朝倉氏については批判の声も大きいですが』

『大切なものは目に見えないということを幸いにも我々は知っている。それだけだ』


相変わらずスマートかつ流麗な言い回しをする。このことについて、地元のパリ市民は肯定的に捉えているようで、会見の内容に対して怒りを表明する者もいた。それほどまでに、パリの街を最低限の被害で解放したことに恩義を感じているらしい。
画面は日本のアナウンサーに切り替わり、ニュースの続きを読み上げる。


『このパリ市議会での決定に対して、フランスのシャントルイユ首相は支持を表明しました。また、ドイツのヘルムホルツ首相とベルリンのヴォルベルクス市長は在独日本大使の明暗大使と面会し、ドイツ政府およびベルリン市としても朝倉陸尉に対する処遇へ抗議しました』


映像はドイツのものに変わり、面会を終えた明暗が画面に映る。相変わらずの男前が報道陣の前に姿を現す。


『私自身、ベルリン同時多発魔法テロ事件の折に朝倉さんに直接助けていただきました。日本大使館が大した被害もなく済んだのは彼のおかげであり、それは当大使館だけでなくベルリン市全体に言えることです。あくまで私が日本政府に伝えるのは面会の内容だけですが、個人的にもドイツ首相とベルリン市長に同意します』


262/293
prev next
back
表紙へ戻る