第五話: Ground-Zero−2
その後、伊吹を通して佐久早たちから収集した情報は司令部から日本政府に伝えられた。それは米国と共有され、すぐに魔法科兵を有する国々による国際会議がオンラインで開かれることとなった。
前回、横浜議定書のときに集まったのはM17という17か国であったが、今回は当時参加しなかった7か国を加えてM24という会議が開かれた。
当然、これに対してディジュラ=ワルフラート連邦共和国は異議を唱え、魔法の自由化を主張した。
最大のネックはティクリートへの攻撃だ。国連加盟国であるディジュラ=ワルフラート連邦共和国に対して、その領内に勝手に外国軍が入って都市を攻撃するなど侵略以外になく、それは国連憲章上、不可能である。
かつて米国がイラクに難癖をつけて戦争を起こしたようなことはどの国も避けたいわけであるが、VASNAによるテロですでに多くの人命と文化遺産が失われており、特にサグラダファミリアを失ったスペインやクレムリンを消失したロシア、タイムズスクエアがクレーターとなった米国、オペラハウスが水没したオーストラリアなどは攻撃に前向きだった。
ベルリン事件のあったドイツや東京事件のあった日本の世論も同様であるが、やはり主権を侵害することには慎重な姿勢である。
経済制裁を行ったとしても困窮するのは罪のない人々のみであるし、もともと戦災でひどいダメージを受けたディジュラ=ワルフラート連邦共和国にあまりに負荷をかければ再び戦争となりかねない。
結局、米国が音頭を取って、「ディジュラ=ワルフラート連邦共和国はVASNAによって政権が牛耳られており、間接的に世界の諸国家に対して戦争を開始したものとみなす」という強引な理屈で多国籍軍が組織されることになった。
アフリカや一部の中東の国はこうした行動を非難したものの、主要国がいずれもVASNAによるテロを受けているため、中国やロシアも含め新常任理事国からは反対が示されなかった。
こうして、日本も「特定の国防陸軍隊員を標的とした誘拐とそれにともなう大規模な破壊活動がすでに発生し今後も発生が予期されるため、これを武力攻撃事態とみなす」という解釈のもと国会で承認を行い、第1魔法科大隊の派遣が許可された。
なお、パリの戦いや深圳事変での派遣は重要影響事態として指定されていた。
あちこちにいろいろと無理がある状態ではあったが、急を要する事態と東京での惨劇を受けて、日本も重い腰を上げているわけである。
各国の動向としては、まずドイツやフランスなどEU加盟国はEU域内でのVASNA拠点の制圧に集中する。もともと魔法科兵が少ないためだ。英国は自国内での作戦を完了したらすぐにアフリカに派遣する。
米国は、二つの大隊のうち一つは自国内での作戦に投じて、もう一つはディジュラ=ワルフラート連邦共和国に派遣する。そのほか、イラン、サウジアラビア、トルコは自国魔法科兵で自国内の掃討を行う。
ロシアと中国、韓国、豪州も自国内でまずは活動し、後に中央アジアや中東に向かうことになっている。
そして、日本の第1魔法科大隊は米国とともにディジュラ=ワルフラート連邦共和国に派遣されることになっていた。図らずも世界最強の魔法科集団となったため、本拠地であるティクリートのグラウンド・ゼロの攻撃を行うのだ。
ディジュラ=ワルフラート連邦共和国は、公式には魔法科兵が国軍にいることを明かしていないが、デリゾールやラタキアで養成された兵士がいるであろうことは誰の目にも明らかである。なにせ、複数の国家の合併により、この国は人口8000万人を超える大国となっている。確率からしても魔法科兵を大隊規模で構築することは難しくない。それに、深圳から流出した魔法兵器もある。
国軍との戦闘は基本的に米軍が引き受けることになっており、日本国防陸軍はティクリートの本拠地施設の制圧に専念する手はずだ。