第五話: Ground-Zero−3
作戦が決まってすぐ、伊吹たち第1魔法科大隊は中東へ向かうことになった。まずは大規模なジェット輸送機でヨルダン王国へと向かう。
矢継ぎ早に決まったことだったが、函館といいパリといい深圳といい、いつも急に呼び出されては現地に急行していたため慣れたものだ。
ただいつもと違うのは、伊吹たちが厚木基地に到着すると報道陣が詰めかけていたことだった。VASNAをついに世界から放逐するための大規模な作戦であることや、日本が初めて他国に軍隊を攻撃のために派遣する武力攻撃事態となったことなど歴史的な出来事であるためだ。
「伊吹悪い、カメラの前に顔出せるか」
「え、俺っすか」
そこに声をかけてきたのは烏養だ。今日は司令部も同行する。
厚木基地の民間人も立ち入れる区画と軍人だけの区画の境界におり、こちらにカメラを向ける群れがフェンスの向こうに見えている。真夏の日差しが容赦なく照り付ける中で、炎天下をものともせずにいるようだった。
「国民に向けて簡単に話してくれると助かる」
「別にいっすけど…俺でいいんすか、それ」
牛島と関係が落ち着いた今、伊吹はもうカメラの前に出ることは怖くない。たとえ世界を敵に回しても居場所となってくれる人がいるし、伊吹に思いを返してくれた世界中の人々を知っている。
まだ他の隊員は伊吹に心配そうに目を向けてくれていたが、牛島が止めていないため反対することもなかった。
「逆にお前以外誰がいるんだっつの」
少し烏養は呆れたようにしてから、伊吹を連れて報道陣の方へと歩いて行く。後ろをついていきながら、いったん建物に入って制限区域を出ると、察した報道陣が先回りしていたエントランスに二人も着いた。
「朝倉さん!意気込みをお願いします!」
「今回の作戦についてどのようにお考えですか!」
「何か国民に向けて一言!」
一斉にマイクとカメラがこちらに向かい、アナウンサーが興奮したように声をかけてくる。会見場でもないここは狭く、距離も近い。すぐそばに近づこうとする報道陣に対して、烏養はそっと、しかししっかりとけん制してあまり近づかせないようにする。
「伊吹、頼む」
そして小さく頼まれた。
伊吹は頷くと、こちらに向けられたマイクたちを前に口を開く。すぐに察して全員が黙って伊吹の言葉を待った。
「まずは本作戦によって、現地の住民に犠牲が出ないよう細心の注意を払います。そして隊員の安全と、VASNAの完全なる無力化に最善を尽くします。厳しい任務となることが予想されますが、一刻も早く世界に安定と平和がもたらされるよう、出来る限りのことをするつもりです」
無難な回答としては100点満点だろう。烏養もその程度のものを求めていたようで満足したように頷く。そして軽く一言、烏養も報道陣に軍人らしく述べてから二人で踵を返そうとしたが、女性アナウンサーが「あの!」と声をかけてきた。
伊吹と烏養が振り返ると、アナウンサーはマイクをこちらに向けて声を張る。
「牛島陸尉とはどのような関係かお聞きしてもよろしいでしょうか!」
「……は?え、いや…はぁ?!」
驚いて大仰なリアクションをした伊吹と、とんでもない質問をかましたアナウンサーに他の報道陣がどよめく。烏養もぽかんとしたあと苦笑していた。まさかこれから任務に出ようという軍人に対してそのような質問をするとは。一度本土に攻め込まれているくせに、いつまでも日本は日本だと伊吹も呆れる。
「先日の会見で極めて親密な関係であることが窺えましたが、お二人の関係はとても近しいものなのでしょうか?」
「っ、それは、」
実際には交際している。しかし男性同士ということやただでさえ目立つ二人であることもあり、こんなタイミングでそれを明らかにすることは避けたい。もっと言えば、そんなプライベートなことに答える義理はない。
しかし答えないのもそれはそれで別の問題があり、単純に恥ずかしいが、とはいえ嘘もつきたくなかった。
どうしようと考えていると、突然目の前に大きな背中が現れた。
「あまり困らせないでやって欲しい」
その低く明瞭な声は牛島のものだ。なぜここにと思ったとき、こちらを振り返って見下ろす。報道陣から隠すように立ちはだかる牛島の精悍な顔は優しく微笑んでいた。
「大きな声がして、動揺しているようだったから来た」
こういったことに不慣れで、なおかつあまりにもジャストすぎるタイミング、さらによりにもよって牛島本人が来てしまったことで、伊吹はついに耐え切れなくなった。
「〜〜〜ッ!タイミング!!なんすかこれマジで!!」
「ぶはっ」
伊吹の叫びを聞いて烏養が噴き出すと、報道陣からも徐々に笑いが漏れ始める。首をかしげる牛島は分かっていないようで、伊吹だけが顔に集中する熱に舌打ちをする。
「っ、くそ、早く戻りましょう…烏養さん、」
伊吹は投げやりになって牛島の背中を押して駐機場の方へと足を向ける。一言呼びかけた烏養は、心得たように「隊員のプライベートには干渉しないでいただきたい」と注意していたが、報道陣からは伊吹の様子がおかしかったのかまだ笑いが聞こえてくる。
なんで出立前にこんな、と内心で思いつつも、しかしこうして牛島が本当に立場より伊吹のことを優先してきてくれたことが嬉しくて、背中を押しながらそっと額を肩甲骨あたりに押し付けた。