第五話: Ground-Zero−4
ディジュラ=ワルフラート連邦共和国・東シリア砂漠州上空。
ヨルダンの首都アンマンから、孤立空間魔法に覆われたいつものジェット輸送機に乗って、第1魔法科大隊はついにディジュラ=ワルフラート連邦の領空に入っていた。場所は東シリア砂漠州、クルディスタン自治共和国を除けば連邦内で最も広大な州であるが、その大半は砂漠であり人が住んでいない。
街道沿いに輸送機は北東を目指しており、この先には州都ラマーディーがあるが、それよりもやや北側に向かって外れて飛んでティクリートを目指している。
かつての日本本土侵攻やパリの戦いを彷彿とさせるように、烏養は立ち上がって機内前方に立ち、全員が傾聴姿勢となる。
「じきに作戦空域に差し掛かる。ティクリート攻撃に関して、今一度状況の確認をしておこう」
米国との共同作戦であるこの作戦は、世界中で一斉に行われているVASNA掃討作戦の一環であり最も重要な本拠地潰しだ。敵は最終防衛ラインとしてこの連邦国家を丸ごと支配し、国そのものを盾としている。
「米軍との共同作戦、『騒乱の三日月』作戦はすでに第1フェーズが完了し、米軍がペルシア湾岸のクウェート州と南カルデア州、地中海沿岸のオロンテス州に上陸した。この3州を制圧した米軍はこれより、北カルデア州、アレッポ州と進軍していく」
世界史ではディジュラ=ワルフラート連邦の領域のことを「肥沃な三日月地帯(Fertile Crescent)」という表現をする。
今回の「騒乱の三日月作戦(Operation Turmoil Crescent)」においては、この三日月を両端から米軍が侵攻していき、国軍、特に魔法科兵を武装解除していく。
まずは西の海岸である地中海からオロンテス州に入り、州都ラタキアの魔法施設を制圧、沿岸の魔法科兵を武装解除して東隣のアレッポ州に入る。そして旧シリア地域の最大都市であるアレッポ周辺の国軍を制圧してから、さらに東に進んで西アッシリア州を進む。ティグリス川に沿ってラッカやデリゾールを落として再び魔法科兵の施設を破壊するのだ。
一方、東の海岸であるペルシア湾からはクウェート州と南カルデア州に入り、第三の都市バスラを無力化する。そこから北上して北カルデア州に進むと、州都ディーワーニーヤやシーア派の聖都カルバラを制圧し、そしてバグダッド首都州に進軍することになっている。
西アッシリア州と北カルデア州・バグダッド首都州の間にあるのが東アッシリア州であり、この州の中央部にティクリートがある。州都はサーマッラーだが、そこには用はない。
「俺たちが叩くのは一か所、本拠地のど真ん中だけだ。東アッシリア州、さらにはティクリートだけを単体で狙う。作戦詳細は武田さんから」
「はい。本作戦では上空から司令部が皆さんをアシストします。まずは敵の防衛ラインの突破方法から確認していきましょう」
武田が立ち上がると、機内前方の大きな画面にティクリートの地図が表示された。市の南部はティグリス川と一体化したクレーターが丸い湖のようになっているのが見える。
「かつての市街地は南部に中心がありましたが、世界大戦以降は北部に移り、マウタリダ地区、シュハーダ地区、アスリー地区が市街地中心部となっています。敵本拠地施設の一つは南部、クレーターの淵にあるアルバイイン地区です。堂々と地上施設を建てており、サッカースタジアムに隣接する病院の体裁となっているようです」
あのクレーターの中心にかつて存在した総合病院の地下施設こそが、伊吹たちイニシャルセブンが魔法科兵となる実験を受けた場所だ。今回も病院に偽装しているらしい。
「もう一つは、アルバイイン地区から大通りを東に進みティグリス川を渡った先、サキヤ地区です。ティクリート東空軍基地の通りに面した大きな建物がそれにあたります。魔法科兵を動員している事実からも、恐らくこの空軍基地にある施設の方が本体だと思われます」
「基地はともかく、アルバイイン地区は旧市街と言えど住宅密集地だ」
烏養は病院を示す。周辺には粗末で雑多な住宅がひしめいていた。廃墟と住宅が入り乱れている。
「本作戦の開始にともなって、敵は防御陣営を構築。ティクリート市街地周辺には陸軍の地上部隊が控えており、クレーター周辺にも見受けられます。そして、敵施設は孤立空間魔法に覆われています」
「隠す気なしだな…」
伊吹は思わず呟く。真っ黒な壁がドーム状に建物を囲む様は、ここにあると言っているようなものだ。逆に言えば、敵はこちらが正確な位置まで情報収集していることを悟っている。
「第一中隊”Wing”は空軍基地に、第二中隊”Earth”は病院に展開し、孤立空間魔法を魔力逆流によって破壊。敵が再びバリアを張り直すまでに司令部で防衛要員の魔法科兵の位置を特定して伝えます。民間人への被害を防ぎつつ、確実に敵幹部を捕まえるべく、少人数対少人数の戦闘を意識してください」
全員殺せばいいというものではない。本拠地にいるであろうVASNAの指導者を見つけ出し、できれば法の裁きを与えるべきだ。それができないのであれば、確実に仕留めなければならない。とにもかくにも、誰がリーダーなのかも分からない以上、それらしき人物を見つけ出すことも重要だった。