第五話: Ground-Zero−5


やがて輸送機は東アッシリア州に入り、ティクリート市街地が前方に見えてきた。


「よし、先に第二中隊は降下準備」


溝口がそう言って立ち上がれば、すぐに第二中隊のメンバーが続いて立ち上がる。背中のパラシュートの最終確認を互いに行い、準備が整っていることを確かめる。

そして輸送機はクレーターから西に2キロに差し掛かった。同時にハッチが大きく開き、熱風が吹き込んでくる。温度計が示す市街地の気温は38度、9月に入ったとはいえまだまだ砂漠の都市は暑い。雨の降らない乾燥した大地はまるで地球ではないようで、その茶色い大地を貫くティグリス川の緑が鮮烈だった。


「降下!」


烏養が号令をかけると、溝口を先頭に、いよいよ第二中隊のメンバーが輸送機から飛び降りて降下を開始した。目標地点は旧イラク国鉄の鉄道線路で、地面を掘削して堀のようになっている部分に着陸する予定である。この線路は長らく使われていない。

ジェット機のスピードであれば、そこから第一中隊の降下ポイントに到達するのに1分とかからなかった。


「第一中隊、降下用意!」


一緒に飛び降りることになっている伊吹も、第一中隊とともにハッチに並ぶ。最前列に立って、中隊長の直井と並んだ。


「熱烈な歓迎っすね」

「ほんとにな」


先に降下を開始した第二中隊に向かって、市街地や郊外に展開した連邦軍から次々に対空砲火が浴びせられる。もちろん、魔法も加わっていた。すべてシールドに防がれているが、それなりに分散させられてしまうだろう。


「降下!」


そして烏養の号令を後ろから聞きながら、伊吹たちは輸送機から飛び降りた。途端に、熱い風が頬に叩きつけ、落下する内臓が置いて行かれるような感覚とともに耳元で空気を切る音が響く。
直後、眼下の市街地やティグリス川から砲撃が始まった。シールドによって防がれるものや、伊吹の爆轟魔法で破壊されるものもあるが、確実に伊吹たちはバラバラに落ちていた。

それは織り込み済みであったため、特に焦ることなく地面を目指す。独立衝撃魔法などによって、シールドをしていても風と衝撃波で体が流され隊員たちは互いに離れていく。
降下目標は空軍基地から西に2キロのところにあるモスクだったが、誰もそこに落ちることはないかもしれない。

眼下はティグリス川に沿って耕作が行われる田園地帯であり、砂漠の中でも川に沿って緑が続く。その緑の畑に向かってパラシュートを開いて着陸態勢となる。落下地点付近に敵軍はいないようだ。


『こちら司令部より清水。第一中隊の落下予想地点は最大半径2キロ圏内で分散、最も空軍基地から離れている第一小隊はティグリス川の東岸の河原に到達する予想』

「こちら朝倉、予定通り俺が回収しに行く。目標から離れたやつらは集合地点を自己申告するように」

『朝倉さん!川に落ちそうっス!!』


無線に日向の情けない声が響いてきた。川に落ちれば携帯している銃火器がダメになってしまう。


「落ちたら俺が殺す」

『ヒェッ…!』


実際に敵対している連邦軍よりも伊吹の方が敵に回せばまずいのだと改めて理解したらしい、無線の向こうでは月島や影山が必死に日向を陸地に誘導しているのが聞こえてきた。どんなときでもいつも通り過ぎる彼らに苦笑しつつ、伊吹は透視によって市民に被害が出ないようにしながら地上の敵を爆殺していった。
西に目をやれば、先に降りた第二中隊が郊外の砂漠で戦闘を始めていた。砂埃が次々と立ち上がるのが見え、腹に響く爆発音が街にこだまする。

ようやくティクリート市街地には空襲警報が鳴り始め、市民の悲鳴がうっすらと聞こえてくる。突然の戦闘に焦っているようで、通りに車や人が右往左往しているのが小さく見えていた。


268/293
prev next
back
表紙へ戻る