第五話: Ground-Zero−6


ティグリス川を挟んでティクリート市街地の対岸にあるアルブ=アジールは、大半が田園地帯となっており、集落がところどころにある日本の田舎のような光景だ。とはいえ、伊吹の魔法で地表ごと抉られた部分ではもはや耕作を諦めたのか、中には集落が丸ごと廃墟となったままのところもあった。

伊吹が着陸したのはそんな廃集落の一角で、10件ほどの廃墟が並んでいた。雨を蓄えるための平たく四角い建物は、天井や壁がなくなっており、ガラスのない窓は暗く、薄汚れた壁は瓦礫が高速で衝突したのか穴が開いていた。トタンや鉄骨などが地面に散らばり、電線が垂れ下がり、集落の中央にある井戸は砂に埋もれている。

どうやら、伊吹による大爆発以来、手付かずになっているようだった。


「…2年4か月か」


あの地獄のような苦しみを3日間負わされた実験施設もろともティクリートを撃滅してからそれだけの時間が経ったのだ。

雑草が生える間を縫って歩くと、突然、銃撃が近くの壁を掠めた。シールドがあるとはいえ、視界を塞がれる時間は短い方が良いため、すぐに近くの建物の影に隠れる。


「こちら朝倉、目標より西南西1キロ地点の集落跡に着陸し会敵」

『こちら司令部、第四小隊は座標を送るから朝倉のところに集合。第二小隊は直井中隊長と合流、第三小隊は任せる。朝倉は第四小隊の集合を確認してから第一小隊のフォロー』

「了解」

『こちら諏訪、了解。第四小隊はこれより朝倉と合流する』


清水の指示によって各隊の集合地点が決められる。
相次いで広大な田園地帯には銃声が響き始め、爆発や衝撃波も草木を吹き飛ばしていく。点在する集落から次々と人々が悲鳴を上げながら逃げ出しており、市民なのか敵なのか遠目では判別がつかない。
ティグリス川の向こうからも悲鳴や爆音、サイレンが聞こえてきており、第二中隊の戦闘が市街地に近づいてきているのが分かる。

そこへ、砂利道を走る革靴の音がやってきた。慣れた音は国防軍のものであるため、ちらりと見れば案の定昼神たちだった。
昼神と白馬、星海は三人とも足音の重さが違う。


「お、一番乗りだね」

「お疲れ。早かったな」

「伊吹と合流できるし」


新宿の戦いで伊吹を傷つけたことや牛島と関係を持ったことで、昼神は一歩引くかと思えば、むしろ前よりもぐいぐい来るようになった。
「弱みに付け込むような感じじゃなくなったから正面から寝取れるかなって」などと言って見せた昼神に、星海がドン引きしていたのを思い出す。伊吹が牛島によってすっかり本調子になったからだろう。

廃墟の壁にもたれて銃声を防ぐ伊吹のところにやってきた三人は、同様に壁から平原を伺う。どさくさに紛れて昼神が伊吹の肩を抱き寄せてきたが、伊吹は気にせず昼神の温もりを享受した。拒否しないことに驚いたのか、昼神は意外そうに見下ろした。


「牛島さんいるからこういうの嫌がるかと思った」

「牛島さんと付き合ってることとお前らが大事だっつーこととは別だろ。さすがに牛島さんが目の前にいるところではしねぇ…いやたまには嫉妬してるとこ見てぇからな…」

「……めっちゃ嬉しいこと言われたのに後半のそれ完全に当て馬じゃん」

「それ覚悟で来てんだろ」

「はぁ〜、吹っ切れた伊吹こっわ、完全に小悪魔じゃん」

ここ(ティクリート)じゃ怪物だけどな」


小さく笑って言えば、昼神や聞いていた白馬たちがどう反応すればいいのか分からないという顔をした。それにさらにおかしくなって、伊吹は昼神から離れながら苦笑した。


「笑うところだからな」


そしてそう一言述べてから、伊吹は廃墟の壁から出て敵影を透視した。


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