第五話: Ground-Zero−7
伊吹が昼神たちと分かれティグリス川の河原に到着し、第一小隊と合流すると、見計らったように清水から無線が入った。
『これから各小隊の座標を送る。確認したら一斉に空軍基地を襲撃。各小隊、可視化魔法で目標施設を探り当て侵入するように』
「朝倉より司令部、空軍基地地下はほとんどが孤立空間魔法によって透視不能。本体は地下施設だ」
『こちら第三小隊!地上吹っ飛ばせばよくね?!』
先に場所を探っていた伊吹が無線で清水に返すと木兎が元気よく割って入ってきた。
伊吹はため息をついて振り返る。
「…澤村さん。ちゃんと小隊長としてのふるまいを黒尾さんと教育するって言ってましたよね」
奔放な木兎の言動に対して、一度澤村と黒尾がそれを何とかしようと取り組んだことがあった。それを引用してジト目を向けると、第一小隊を率いて前に立つ澤村は苦笑した。背後には第一小隊のメンバー、そしてティグリス川がある。ここは雑草に覆われた河原で、足元はぬかるんでいる。
「悪い、手に負えなかった」
「…まぁいっすけど。こんな無茶な提案通るわけねっすから」
『こちら司令部、やっちゃってよし』
「…清水指令??」
伊吹が言った直後、無線で清水が凛とした声で答えた。思わず無線に向かって呼びかけてしまったが、木兎の喜ぶ声が聞こえた直後、数キロ先の空軍基地に突然爆炎が立ち上り、一瞬遅れて爆音が轟いた。対岸の市街地から悲鳴が聞こえてくる。
地面が吹き飛んだのか、茶色い煙がもうもうと基地を覆い、風に乗って東へ流れていく。ここが風上で良かった。
『空軍基地地表部分の消失を確認。孤立空間魔法が地下空間を覆っていることを目視。各隊基地に接近し、孤立空間魔法の消滅を図るように』
「……澤村さん、文句くらいは聞いてもらいますからね」
「恋人に聞いてもらった方が早いんじゃないか?」
「殉職をお望みっすかそうっすか」
拳を握り締めて澤村に向かうと、焦ったように影山と日向が伊吹を止めに入った。それを見ていた田中たちば爆笑している。影山と日向に挟み込まれるようにして抱き込まれている状態からとりあえず脱すると、伊吹は第一小隊を見渡して茶色い粉塵の立ち上る基地を示す。
「…ったく。いいっすか、ここから北北東に第二小隊、北東に第三小隊、東北東に第四小隊がいます。恐らくこの3小隊はほぼ同時に到達するはずです。俺たちはここから東北東寄りに進んでいきますが、多分、第三小隊と第四小隊の取りこぼしと会敵します」
まじめな話に移れば、すぐに全員表情を引き締める。澤村は頷くと、各小隊の座標をポータブル端末で確かめながら伊吹に返す。
「魔法科兵は?」
「中隊規模で散会していると思います」
「なるほどな。基地の地下全体を孤立空間魔法が囲ってるってことは、相当量の魔力を逆流させないと消滅できないよな?」
「俺か牛島さんなら一人でも。恐らく温存のために全員でやるはずです」
「問題はそのあとか」
「はい。少し遅れて俺たちは到達するんで、手薄なところに向かいます」
「了解した。よし、行くぞお前ら!」
威勢のいい掛け声とともに、全員走り出す。緑と茶色の混じる平原を駆けだせば、すぐに銃声が響き始めた。周囲の廃墟からこちらに向かって衝撃波や爆発が放たれる。広い空は銃声をよく遠くまで響かせ、爆風や爆発による衝撃波が空気を振動させるのが目に見えるようだった。
すでに司令部は、高高度から戦闘の状況をモニターしつつ、次の手を考えているはずだ。孤立空間魔法が消えたあと、どのように施設に侵入し、誰が地表に残って脱出しようとする者を監視するのか検討されていることだろう。