第五話: Ground-Zero−8
第一小隊とともに残党を処理しながら北東へと進んでいくと、大量の魔力が前方から感じられた。先着の隊員たちによる孤立空間魔法への干渉だろう。
「孤立空間魔法の破壊が始まりました。すぐに破れます」
短く隣を走る澤村に告げると、澤村は頷く。ここからは臨機応変に、かつ迅速に対応を決めていかなければならない。
数分としないうちに、こちらの魔力によって巨大な孤立空間魔法が破れた。音などはないものの、ふっと大きな違和感が消えるような感じだ。
その直後のことだった。空軍基地の周囲が突如として爆発し、茶色い煙が数十メートルの高さで立ち上がり、爆音が轟いた。爆煙は茶色い壁のように基地を覆い、衝撃波が平原を駆け抜ける。明らかに味方の魔法ではない。無線には焦ったように清水の声が入った。
『こちら司令部、第二小隊から第四小隊は状況を報告。聞こえる?』
しかし、誰の応答もない。
こんなことは初めてで、第一小隊に一気に緊張が走った。
『っ、げほ…っ、こちら直井、敵の反作用爆轟魔法により第二小隊全隊員に直撃。大平、白布、五色は意識不明。山形、天童の姿が見えない』
『…こちら赤葦、第三小隊も全員が負傷、猿杙さんと長尾が意識不明』
『げほっげほっ…こちら諏訪、上林と野沢、別所と連絡が取れない。白馬も出血多量』
そして各隊から告げられた報告に、さすがの伊吹も口を閉ざした。最も苦戦したパリの戦いや東京魔法テロ事件でもここまでの被害にはならなかった。6人が重傷、5人が行方不明というのはあまりにひどい惨状だった。
「なんで、こんな…」
愕然とする菅原に、伊吹は冷静に口を開いた。
「あの孤立空間魔法が罠だったんでしょう。あれを破壊するために魔力を逆流させると、孤立空間魔法の破壊とともにその逆流した魔力に反応して爆轟魔法が反作用魔法として展開されるようになってたってわけっす。反作用魔法はシールドでは防げねぇのを利用されたんすね」
「なるほど…」
「菅原さん、俺が運ぶんで回復魔法を行ってください。司令部もそう判断するはずです」
「分かった」
菅原が応じ、澤村も頷く。伊吹は風気魔法を展開して菅原と二人で飛び立つと、いまだ煙が立ち込める基地へと一気に飛んだ。熱い風を感じながら飛んでいると、すぐに清水から無線が入る。
『こちら司令部、朝倉と菅原は分かっていると思うけど回復魔法を急いで。まずは白馬から。赤葦は動けるなら第二小隊の山形と天童を捜索。諏訪は可視化魔法使える?』
『…こちら昼神、諏訪さんも意識を失いました』
「こちら朝倉、菅原さんが治療している間に俺が探す」
『司令部より了解、赤葦は捜索を行い、第三小隊は第二小隊と合流するように』
『こちら赤葦、了解』
無線でやり取りが終わるころには伊吹と菅原は第四小隊のところに到着していた。基地周辺の地面は大きく抉れ、土砂が地下施設の天井だった部分を覆っている。川沿いの平野と基地の間には、かつての川岸である緩やかな崖が横たわるが、吹き飛ばされた土砂が堆積して大きな丘のようになっていた。
その土砂や瓦礫の間にぐったりと横たわるのが諏訪と白馬で、昼神が白馬の腹を抑えているのが見えた。星海が周囲の警戒に当たっている。
「菅原さん、頼みます」
「任せて」
昼神に代わってすぐに菅原が白馬の腹に回復魔法をかけ始めた。昼神の両手は止血のために抑えていたことで真っ赤に染まっていた。
「動けるのは昼神と星海だけか」
「あぁ。上林さんたち頼む」
星海は鋭い視線で周囲を警戒しながら答えた。伊吹は目を閉じて俯瞰透視を行い、連絡が取れないメンバーを探す。この土砂の中に埋まっているのだとすれば最悪だが、あくまで行方不明が出ているのは透視要員がダウンした第二小隊と第四小隊である。恐らく吹き飛ばされて落下中にそれぞれ魔法でコントロールくらいはできたはずなので、完全に土砂に埋まっているということはないだろう。