第五話: Ground-Zero−9



「第二中隊の方は大丈夫かな」


伊吹が探していると、昼神が話しかけてきた。これくらいなら話しながら魔法を展開できる。


「情報共有はされてる。同じギミックを警戒して及川さんたちが動いてるはずだ。…星海、その斜面下りた先の岩陰に上林さんがいる。野沢さんはその先15メートルのところに倒れてる。昼神、別所はティグリス川方向に10メートルいったところの瓦礫の影」

「了解」

「了解、ありがと」


星海と昼神はすぐに倒れている3人を回収しに行った。そのころには菅原は白馬への回復魔法を終えて、今度は諏訪に取り掛かる。


「菅原さん、白馬は輸血必要ですか」

「ギリギリ大丈夫なラインまで血液も生成させたから大丈夫」

「…そんなことまでできんすね」

「まぁね。諏訪は軽い脳震盪だからすぐ目ぇ覚ますよ」


魔力によって身体機能を無理やり働かせることができるが、もちろん乱用はできない。それでもこの緊急時には極めて重要だった。
諏訪、さらに星海たちが運んできた3人にも次々に回復魔法を施していく。その間、無線では優先順位を引き上げる要請はなかった。各小隊長はそれくらいの判断ができるよう訓練されているが、緊急の事態に陥っている者は今のところいないようだ。


「…悪い、菅原……」


先に目を覚ました諏訪の掠れた声に、立ち上がった菅原はほほ笑む。


「気にすんなって。しばらく激しい動きはすんなよ。まぁすぐ回復するだろうけどな」

「ありがとう」

「…じゃあ行きましょう菅原さん。昼神と星海は、みんなの様子見て大丈夫そうだったら牛島さんたちと合流してくれ」

「分かった」


星海と昼神が頷いたのを確認してから、伊吹と菅原は再び風気魔法で飛び立つ。右手に煙に包まれる基地、左手に田園地帯を見ながら土砂に覆われた地面の上を飛行していくと、眼下に今度は第三小隊が見えた。
倒れているのは長尾と猿杙で、そばに控えているのは小見と木葉だ。木兎と赤葦は第二小隊の行方不明になっているメンバーを探しに行っている。


「小見さん、木葉さん、お待たせしました」

「スガさんとうちゃーく」

「お、待ってたぜ!」


小見がホッとしたように二人を迎える。菅原は着地と同時に猿杙への回復を開始する。その間、伊吹は木葉の方を見た。


「状況はどうなってますか」

「赤葦と木兎は第二小隊の方に向かってる。爆発んとき、咄嗟に小見やんが孤立空間魔法をそれぞれに展開してくれたから、まぁあちこち痛みはあるけど動ける。長尾と猿杙は振ってきた瓦礫に頭打ってる」

「なるほど…第三小隊の被害は他2つより小さいっすけど、小見さんのおかげっすか」

「それもあるけど、あの孤立空間魔法を破壊してすぐに爆轟魔法が起動したとき、爆心に近かったのが第二小隊と第四小隊だったっぽい。俺らは木兎が突入しそうになるのを止めるために少し基地から離れてたんだ」


まさかのここに来て木兎のふるまいが第三小隊を救ったことになる。
伊吹は微妙な気持ちになりつつ、無線をオンにする。


「こちら朝倉、第二小隊の残りのメンバーは動けそうですか」

『こちら牛島、問題ない。俺と瀬見、川西の3名はすぐに作戦行動に入れる。直井中隊長もだ』

「了解。司令部へ、現在行動可能なのは第二小隊の3名と、第三小隊から木兎さん、木葉さん、小見さん、赤葦、第四小隊から昼神と星海、以上10名。加えて第一小隊と俺がすぐ実働可能」

『司令部より各隊へ、朝倉大尉を中心にすぐ動ける10名と第一小隊で地下施設へ突入。直井中隊長は負傷した兵士とともに施設を監視し地上からの脱出を見張ってください』


わざわざ清水が伊吹を「大尉」と呼んだのは、指揮系統として肩書が重要になるためだ。一応、特殊即応官という役割を維持している伊吹であるが、先の東京での作戦行動を受けてのことか、率いる立場に就かされてしまった。


『こちら直井、了解した。菅原による第二小隊のけが人への治療が完了したら他のけが人と合流を図る。伊吹、頼んだぞ』

「……こちら朝倉、了解」


無線が終わると菅原も二人の治療を終えていた。すぐに二人とも目を覚ますだろう。


「先に俺と菅原さんは第二小隊と合流してきます。二人は猿杙さんたちが目を覚ましたら状況を説明してください。目を覚まさなくても無線で合流の指示があったら来てください」

「了解」


かなり人数を削られての施設突入となるが、こればかりは致し方ない。警戒レベルを高めて、動ける者で突入しなければ、確実に逃げられてしまう。


272/293
prev next
back
表紙へ戻る