第五話: Ground-Zero−11
地上に降下してから1時間、多くの負傷者を出しつつも、ついにティクリート東空軍基地への侵入を開始した。
空軍基地は縦2キロ、横4キロほどの長方形の形をしており、短辺を南に向けたひし形のような傾いた向きになっている。
南西から第一小隊、北西から第三小隊と第四小隊、そして東から伊吹たちが土砂の合間から施設へと突入し、天井のコンクリートとともに孤立空間魔法を破壊する。
破壊するのと同時に、防御担当が孤立空間魔法をシールドとは別に展開することで反作用魔法によるカウンターを防ぐのだ。
伊吹は孤立空間魔法ごと天井を破壊するのと同時に川西の孤立空間魔法によって視界が塞がれたのを確認してから、川西にそれを解くよう指示する。
「もう大丈夫」
「分かった」
川西が壁を消すと、辺りには粉塵が立ち込めているものの、何か大きな爆発などが起きたようには見えない。もしかしたら施設内の魔法には反作用魔法がかけられていないのかもしれないが、そう判断するのは早計だ。
「…進みます」
伊吹は開いた穴から施設内に入る。続いて牛島、瀬見、川西と入ってくる。停電によって室内は暗く、天井の穴からの明かりしかない。扉などはなく、がらんとした部屋が無機質に続いているだけだった。
「…同じような部屋ばっかで迷うな」
「それが目的でしょうね」
瀬見は延々とコンクリート打ち放しの部屋が連続する空間を見て顔をしかめた。迷路ではないが、そういう意図があるかもしれない。
「…本当にあの日を思い出すな」
「…そうっすね」
牛島がぽつりと言ったのは、かつてイニシャルセブンとして伊吹たちが魔法科兵になる実験をさせられたあの地下施設のことだろう。今はクレーターとなった、ここから西に川を挟んで反対側にあった病院の地下だった。
「…あの日、俺は守られる側の人間でしたけど、今は違う。まぁ、向こうもまったく別者でしょうけどね」
牛島たちに庇われながら脱出してから2年4か月、今では伊吹が率いる立場にいる。
そしてそのような成長は、相手も同じだ。魔法科兵としての技術は向こうも同様に高い。先ほどの反作用魔法もかなり精緻かつ大がかりなものだった。
「施設そのものが崩壊すると脱出が困難になります。なるべく施設のダメージを与えず、突っ切っていきます」
「了解」
牛島が短く返す。伊吹はそのまま歩き出し、薄暗い廊下を進んだ。
長くまっすぐな廊下はやはり扉がなく、延々と同じ部屋が並んでいる。時折、孤立空間魔法を消滅させながら進んだが、特にカウンターはなかった。向こうも施設へのダメージが出ないようにしているのだろう。
それでも警戒して、壁を破壊する度に川西に孤立空間魔法を展開してもらいながら進んでいるときだった。
川西の魔法を解いて前方に足を踏み出した、そのとき、突如として床が崩れ落ちた。足場がなくなり唐突に重力が全身にかかる。
「ッ、くそ、」
落とし穴というより、敵が孤立空間魔法を破壊されたのを察知して伊吹たちを廊下ごと下の階に落下させたのだろう。4人は慌てこそしなかったが、瓦礫とともに階下へと落ちる。
そして下のフロアを視界に収めた瞬間、誰のものとも分からない舌打ちが漏れた。
学校の体育館よりも遥かに大きな吹き抜けの空間には、大隊規模の魔法科兵がこちらに魔力を漲らせていた。さらに、全員がガスマスクをつけており、すぐに鼻の奥に突き抜ける異臭を感じる。毒ガスだ。
床までは3メートルほど、着地する前に攻撃を食らえばシールド兵器によって空中に留まることになってしまう上に、かつて伊吹がパリでやったように毒ガスとともに閉じ込められてしまう。
「川西!」
伊吹は叫ぶのと同時に風気魔法で部屋の空気を毒ガスごと吹き飛ばす。一瞬あとに川西の孤立空間魔法が部屋の空中2メートルほどのところで展開され、空中の箱の中に4人は留まることになる。
なんとか頭上の上階から空気を風気魔法で同時にこちらに送っていたために箱の中にあっても空気はあるが、やはり薄いのは確かだ。真っ暗な空間の中、牛島がペンライトで全員を照らす。