第五話: Ground-Zero−12
「ど、どうする伊吹」
瀬見は少し焦ったようにするが、伊吹は牛島のペンライトに照らされた背の高い顔を見上げる。
「川西、あの数に魔力流されてどれくらい耐えられる」
「…どれくらい孤立空間魔法を維持できるかってことっしょ…?30秒かな」
「十分。この部屋全体をこの箱と同じ高さで蓋して、いったんここから出て上階に戻る」
「了解」
「全員呼吸を止めます。いいっすか、」
全員が頷くのを確認し、「せーの」と合図をしてから大きく息を吸い込む。3人が息を止めたのを見てから、伊吹は川西にゴーサインを出した。
川西は孤立空間魔法を広い部屋全体に展開し、そしてこの箱の上部を開けた。伊吹は風気魔法で全員を浮き上がらせると、急いで上階の廊下に戻った。ちらりと空間を見れば、真っ黒な天井に覆われている。
「うぐっ…!」
しかし川西は苦痛で呻いた。大隊規模の敵魔法科兵による魔力逆流に耐えているのだ。さらに呻いたことで少し息を吸ったのか、激しく咳き込む。
すぐに上階に着いたため、牛島が川西を支えて廊下の先へと走る。
「川西!いったん解いて廊下に壁作れ!」
この状態の川西に魔法を使わせるのは心苦しいが、川西のためでもある。川西は頷いて、大きな部屋の孤立空間魔法を解いてから、新たに廊下を塞ぐように壁をつくる。それによって毒ガスが流れてくるのを防ぎつつ、伊吹は風気魔法で微かに漂うガスを吹き飛ばして希釈した。
「ぶはっ、もう大丈夫っす」
瀬見と牛島は息をつくと、せき込む川西に駆け寄る。
「川西!大丈夫か!?」
瀬見はその広い背中を擦ってやるが、川西はかなり苦しそうだ。それなりの量のガスを吸い込んだらしい。
伊吹も川西の隣にしゃがみ、膝をついて咳き込む川西の顔を覗き込んだ。
「川西、俺と目ぇ合わせられるか」
「っげほっ、げほッ、はぁ、っ、」
川西はなんとか伊吹を目線を合わせるが、若干朦朧としている。
「…悪い、川西、つらい思いさせた」
伊吹はそれだけ言って立ち上がる。牛島を見上げれば、牛島は心得たように口を開いた。
「川西のこれ以上の作戦行動は難しい。瀬見、川西を連れて菅原のところへ離脱しろ」
「瀬見さん、直井さんに水氷魔法で大量の水を出してもらって、川西を全身洗い流してください。塩素ガスだった場合、水に触れると塩酸に変化するので、勢いよく大量の水で流すのが重要です」
「了解した。行くぞ、川西」
瀬見は川西の肩を支えて立ち上がり、来た道を戻り始めた。一応、階下を含めて伊吹は透視し、戻る道に異常がないことを確認している。
「…さて、防御担当がいない、攻撃は最大の防御状態ですが」
「問題ない。この大きさの空間ならじきにほかの小隊も着く。そうしたら、第一小隊にここを任せよう」
「……西谷の孤立空間魔法でここを覆い、成田の火炎魔法で滅却するわけっすね」
「あぁ。ガスが消えても敵が残っているようであれば、残りの第一小隊全体で戦闘という形を取る」
「そうっすね、頼んでみます。こちら朝倉、澤村さん取れますか」
『こちら澤村』
ギリギリ無線が繋がる区画にいたようで、伊吹はひとまず安心する。連絡手段がないと間に合わなかった可能性もあった。
「俺たちの突入地点より7時の方向に130メートルほど進んだところに、100メートル四方×3メートルほどの巨大な空間が階下に広がっており、大隊規模の魔法科兵が待機する毒ガスの満ちた部屋となっています。そこを第一小隊に任せても大丈夫ですか」
『了解した』
『こちら赤葦、空間の位置は把握した。そこを避けて異動する』
「頼んだ」
これで伊吹たちのように敵の罠に引っかかることもない。以降は、伊吹と牛島の二人、そして木兎たち第三小隊と第四小隊の二手に分かれて施設の捜索を行うことになる。