第五話: Ground-Zero−13
罠に警戒しながら先を進み、孤立空間魔法の壁をなるべく反作用魔法が起きないよう少しずつ魔力を逆流させることで破壊していきながら、二人は階段に辿り着いた。
地下構造はかなり複雑なようで、恐らくここからさらに下っていくことになるだろう。
「…そういえば、これは俺たちの初デートということか。少し味気ないな」
「……や、何言ってんすか」
「冗談だ」
階段を下り、廊下の先に敵の気配がないことを確認すると、おもむろに牛島はそんなことを言いだした。伊吹がじとりと見上げると、牛島は小さく笑った。
「大丈夫だ伊吹、川西も、負傷した他のメンバーも、一緒に帰国できる。普段よりもだいぶ目つきが悪いぞ」
「…そんな分かりやすいっすか」
「…俺の前だから隠さずにいる、と自惚れている」
他の隊員に心配させないよう、一等陸尉として伊吹はなるべくそうした表情を見せないようにしていたつもりだった。牛島に見抜かれていたことでバレていたかと思ったが、続く牛島の言葉にどきりとする。
「……ご明察っすね」
「ふ、そうか」
関係が変化してからというもの、牛島の一挙手一投足に動じている気がする。互いにこうしたことに疎いというのもあるが、牛島の感情表現が思っていた以上に豊かで驚いていた。
同時に、その一言一言に、些細な行動一つ一つに、心臓が騒ぐのだ。
するとそこへ、前方から遠く銃声や爆発音が聞こえてきた。くぐもった悲鳴は日本語ではない。
「これは…第一小隊の戦闘っすね」
「この先はあの毒ガスの広間か。敵の本体がどこにいるかは分からんが、さらに地下というのが定石だろうか」
「逃走することが前提であればむしろ地下奥深くよりも中腹くらい、さらに言えば地中貫通爆弾を想定しているなら逆にもっと深くって感じっすけど、この堅牢な魔法機構を見るに、魔法防衛が前提っすね。だとすれば敵は逃げるつもりもないし、かと言って核弾頭が直撃することすら想定してねぇはず」
「…なるほど。地上からの爆撃は気にしなくて良いのであれば、魔法防衛、かつ対魔法防衛でもあることも考えると…球体で防衛ラインを構築するか」
「俺もそう思います。魔法攻撃を前提にするのであれば、地中深くである必要はないものの、全方位を警戒する必要があります。垂直に深く、というよりは、球体の中央と考えるのが妥当っすね」
「施設そのものは空軍基地地下に直方体だったのを、木兎が地表を吹き飛ばしてから確認している。あともう少し下りた先か」
伊吹は目を閉じて俯瞰透視を行う。考え方としては球体の中心であるが、実際の建築構造と防衛ラインが必ずしも同じ形とは限らない。
孤立空間魔法やそれを構成する魔力の流れを透視で確認していくと、孤立空間魔法に阻まれていない範囲である程度見えてきた。地上から伊吹たちが侵入して次々と孤立空間魔法を破壊しているため、先ほどよりも見える範囲が広がっているのだ。
「…防衛ラインは地下構造よりやや地下寄りまで広がってます。地中からの攻撃をそれなりに警戒していたようです。概ね、地下構造の下から3分の1くらいのフロアが中心部だと思います」
「そうか。ではまだ下りる必要があるな」
当然のように階段は分散しており、一気に降りることはできない。
伊吹と牛島は別の階段を探すべく、再び黒い壁に塞がれる廊下の前方へ向かっていく。そこに、無線が入ってきた。若干聞き取りづらいが、溝口だ。
『こちら第二中隊、ティクリート市街地での作戦を完了。やはりクレーターの施設に敵幹部はいない。これより空軍基地へ向かう』
どうやらクレーターの沿岸にあった施設は制圧したらしい。溝口は全体オープンで報告したため、司令部から武田が返す。
『こちら司令部、了解。基地突入の采配は滑津司令より指示します。先行している第一中隊の一部隊員は引き続き施設内を捜索、ただし深追いはせず場合によっては友軍を待つ選択をしてください』
「…だ、そうっすよ。待ちます?」
「決定的に待つ必要があるときまで進もう。慎重かつ大胆にやるのは魔法科大隊の得意分野だろう」
「完全に同意っすね」
パリや香港など、そうした場面は多くあった。魔法の実力に慢心することはしないが、事実として伊吹と牛島の実力は世界トップなのだ。まずは進めるだけ前に進み、後続に道を切り開くべきだろう。