第五話: Ground-Zero−14
牛島と二人でさらに階下へ進むこと2フロア分、徐々に照明の数も減り、武骨な内装はさらにボロボロに、一部には血痕すら付着する不気味なものになり始めた。実験施設としての性格を持ったフロアまで到達しているようだ。ここまで来ると、防御魔法も強度を増している。
「…いよいよ、2年前を思い出しますね」
「あぁ。またティクリートにこんなものが築かれるとは…」
伊吹たちが魔法科兵となったあの施設とほとんど同じ様相を呈している。まだ伊吹が文民であった頃、主な武器がアサルトライフルだった頃のことだ。
すると突然、少し先の廊下を塞いでいた孤立空間魔法が、おもむろに掻き消えた。誰かやってきたのかと身構えるが、壁の向こうに現れたのは木兎と小見だった。
「木兎さん、」
「お!伊吹と牛島じゃん!」
「あれ、川西と瀬見は?」
「そちらこそ、木葉と赤葦はどうした」
互いに姿が見えなくなった仲間がいる。聞くところによると、やはり木兎たちも戦闘で負傷し、木葉が離脱し赤葦がそれに付き添っているそうだ。防御要員の小見を残したのは赤葦の采配だろう。
伊吹も川西と瀬見のことを説明し、木兎たちの後ろの廊下を見遣る。
「ここで出くわしたってことは、俺たち誘導されてますね」
「え、マジ?」
木兎はポカンとするが、小見は顔をしかめた。
「やっぱな。あんま曲がり角も分岐もなくて、道なりに来てたから、どっかに正しい道があったってことだよな」
「考えられるのは迷彩魔法か」
「そっすね、不可視化魔法と光電子魔法を孤立空間魔法に干渉展開させてるんだと思います。あちこち壁があって透視できない区画に疑問を持ってなかったっすけど…」
「もーさー、全部吹っ飛ばしてもよくね?」
地道な進み方に飽きたのか、木兎はそんなことを言いだした。
伊吹としても、その意見に完全に反対というわけではなかった。
「…そうですね、仮に隠蔽された廊下を発見できたとしても、そこには罠が敷かれている可能性もあります…まんまと引っかかるのも癪に障るんで、そろそろ相手の裏をかく行動がしてぇっすね」
「うお、珍し、木兎の意見に賛成するなんて」
小見が驚き、木兎は「だろ〜?」と笑う。牛島も同意のようで、ひとつ頷いた。
「確かに、あからさまに重要だと分かる廊下にはトラップが考えられる。伊吹、階下はどれくらい透視できる」
「とりあえず、真下はクリアっす」
「では行くぞ」
牛島はそう言うと、突如として床を殴りつけた。拳に展開された破砕魔法によって、床のコンクリートは粉々に砕け、一同の床が消滅した。
同時に階下へと落下し、砂とともに階下の床に着地する。すぐに僅かに呼吸したが、ガスの類はなさそうだ。
しかし、透視によってこのフロアを警戒しようとした、そのときだった。
床を這う魔力がまるで電子回路のようになっており、それがちょうど小見の足元で魔法式を展開していた。見慣れた図式に伊吹は「小見さん!」と咄嗟に叫ぶが、小見が反応する前にその床が爆発した。
小見のシールドの内側に入っていたためにもろに小見は食らってしまい、吹き飛ばされ壁に激突する。壁の衝撃はシールドによって防がれたが、小見は呻いて床に崩れ落ちた。
「戻ります!」
伊吹はすぐに全員の足元に風気魔法を発生させ、上階へと戻った。牛島が開けた穴から上の階の廊下に着地すると、小見はぐったりと倒れる。頭を打ったらしい。
恐らく、伊吹たちが床を破った直後に、階下の床に魔力が行き渡った。一瞬にして魔力が床に満ちたが、伊吹たちの方からその床にやってきたため、シールドはその魔力に反応しなかった。自分から接近する限り、防げないのである。
「っ、小賢しい真似しやがって…!」
負傷した小見は動けない。どうやっても伊吹たちを出し抜いてくる高度な魔法トラップの数々に、苛立ちから舌打ちをする。木兎は小見の様子を確かめており、牛島は無線で連絡を取っている。
「…よし、すぐに第二中隊から第五小隊が到着する。小見を引き取ってもらおう」
「小見やん!俺が仇は討つからな!」
「や、まだ死んでねっすよ木兎さん」