第五話: Ground-Zero−15


牛島が言った通り、すぐに伊吹たちのところに第五小隊が到着した。伊吹たちが来た方から走ってきたのは及川と松川だ。


「お疲れ様です。二人だけっすか?」

「お疲れ伊吹。そうだよ、敵はだいぶ強くて策士だ」


苛立ったように及川は言って、松川が苦笑しながら小見の様子を見る。伊吹が及川の端正な顔を見上げると、及川は安心させるように笑う。


「そんな心配しないで。っつっても、まぁ、わりとこっちも被害出してるけどね。うちだと、市街地の戦闘でまっきーと渡が負傷。基地に来てから金田一と京谷が負傷して地上に離脱、国見ちゃんと岩ちゃんがその付き添い。矢巾は最初から地上でスガ君と待機」

「それで二人まで減ったんすね。地上はどんな状況ですか」

「結構、基地から敵が出てきてわりと戦闘が散発してる。市街地には第六小隊が壁となって民間人の作戦区域への侵入を防いでるのと、第七小隊はティクリート全体に散って索敵中。第八小隊は北から基地に入って、第一小隊に合流して大隊規模の敵兵と交戦中かな」

「…つまり、現状で地下に進めるのはここにいるだけということか」

「俺が小見を連れてくからお前らだけだ」


松川はそう言って小見を抱え上げる。負傷した者を確実に地上に送り届けるため、防御要員の松川が付いて行くようだ。それが妥当だが、伊吹は背の高い3人を見渡す。


「…こんなことになるとは」

「ほんとそれ」


何の因果か、イニシャルセブンの伊吹、及川、牛島、木兎の4人だけが残されてしまった。伊吹以外は小隊長であるにも関わらず、そのメンバーの大部分が負傷して隊長だけが残っている状況だ。
及川は「UNIASSM(ユーニアスム)の同窓会か何か?」とため息をついている。松川は小見を肩で支えながら歩き出し、ちらりと伊吹を振り返った。


「きっちりけじめつけられるといいな」

「…はい。ありがとうございます」


ひらりと手を振って松川は小見を連れて地上に歩き出した。
後に残った伊吹たち4人は、その反対方向、廊下に開いた穴を見つめる。


「さーて、借りを返すとしますか」


及川はそう言うと、ニヤリと笑って伊吹の背中を軽く叩く。木兎も不敵な笑みを浮かべ、牛島は首をぼきりと鳴らす。あの日受けた苦痛を、あの日から変わってしまった世界を、失われた無数の命を思い、伊吹は大きく息を吸った。


「…いきましょう。反作用魔法を展開しながら降りてください。フロア全体が魔力回路のようになっているので見えづらいっすけど、このフロアに敵の本丸があるようです」

「そうなのか」

「魔力の流れが同心円状なんで。あえて魔力の流れを維持したいので、魔力の逆流はせずに突っ切っていき、その中心を目指します」


階下に敵の本体がいるようで、そこから魔力がフロア全体に広がっているようだった。その魔力を辿っていけば敵の居場所が分かる。
ただし、それまで敵の攻撃を受け続ける上に、大半はシールドが発動しないだろう。反作用魔法を使ってもある程度はダメージがある。防御要員もいない。


「怪我前提っすけど、大丈夫っすか」


伊吹が聞けば、木兎は快活に笑う。


「あんときよりマシだろ!」


伊吹たちが魔法使いになるためにこの街で受けた実験は凄惨極まりなく、全員、ひどい苦痛を味わされた。それに比べればマシだろうという木兎の言葉は、まさにその通りだった。

及川と牛島も同じなようで、牛島は伊吹の肩を軽く抱き寄せる。


「何かあれば俺が伊吹を守る。だから伊吹、頼んだぞ」


牛島が伊吹を一方的に守ろうとするのは、あの記者会見のように、恐らく精神的な部分だけだ。戦闘においては常に対等でいようとする。
今頼まれたのは、ここから敵本体を叩く主砲となるのが伊吹であるということと、ここにいる全員を守れるのが伊吹だけであるということだろう。代わりに牛島は、こうして伊吹を抱き寄せて落ち着かせてくれた。


「…誰に言ってんすか」


だから伊吹もそう言って笑ってみせた。
2年前、彼らに守られて進んでいた伊吹はもういない。伊吹は今、彼らの前に立って、彼らとともに進むのだ。


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