第五話: Ground-Zero−16


伊吹は牛島が開けた穴から、反作用魔法を展開しながら飛び込んだ。再び階下の床には魔力が迸り、伊吹たちの方から敵の魔法に飛び込む形となる。そのため、やはりシールドが反応する気配はない。
伊吹が着地した瞬間、衝撃波が足元から放たれた。同時に伊吹の反作用破砕魔法によってコンクリートが砕け床に穴が開く。大部分はその破砕魔法に置換されたものの、やはり衝撃波の一部は伊吹の体に直撃し、足に鈍い痛みが走る。それに呻くのを我慢しながら魔力を辿って走り出すと、背後でも下りてきた及川たちに爆轟魔法や破砕魔法が展開され、それぞれ反作用魔法で跳ね返す音が聞こえ始めた。


「いでぇッ!」

「っ、くっそ…!」


木兎や及川の声が廊下に反響する。見た目は何でもない武骨な廊下だが、その床には魔力が常に巡っており、そして上階よりも多くの血痕が壁などに付着していた。実験された人々は、このフロアから上には上がれなかったのではないだろうか。

その考えを補強するように、魔力を辿って壁を破壊して部屋に入ると、強い臭気が鼻をついた。足元からの攻撃に反作用爆轟魔法を返しながらその悪臭の元を見遣ると、何人かの死体が折り重なるように積まれていた。
凄惨な光景に、伊吹はすぐに目をそらした。伊吹の様子を見て、部屋に入ってきた牛島たちも臭気に顔をしかめてから死体を見て目を見開く。

伊吹は振り切るように部屋を突き抜け、また足元に衝撃魔法を展開してから壁を破壊して次の廊下に出た。


「…ッ、人をなんだと…!」


人を人とも思わぬ所業に唇を噛みしめながら、さらに廊下を走る。流れる魔力量が多くなって敵が近いことが分かるが、すでに伊吹の体も足や腰、腕に裂傷や火傷を負っており、痛みが滲んで汗が出てくる。それでも、ここで止まるわけにはいかないと足を動かした。それに、新宿の戦いの方が重傷だったのだ。これくらいで弱音を吐くつもりはなかった。

そうして進むこと5分、伊吹だけでなく後続の牛島たちも全身に怪我を抱えた状態で、黒々とした壁が目の前に現れた。どうやらこの先にまた学校の体育館ほどの大きさの空間が広がっているようで、それをまるまる覆っていた。


「どうする、魔力逆流させる?!」


及川は床から放たれた衝撃魔法を避けながら黒い壁に手を向ける。しかし伊吹は首を横に振った。


「この魔力は壁の中から来てるんで、逆に言えば魔力が床に流される隙間がこの孤立空間魔法には開けられてます。そこから俺が魔力を一気に流してこの中に魔力を流し込み、そこで雷電魔法を放ちます」

「分かった。伊吹、俺に乗れ」

「お願いします」


集中する必要があるため、迎撃を任せるべく伊吹は牛島に抱きかかえられた。牛島が代わりにすべての床からの魔法を受けてくれる。及川はそれを見て少し呆れたようにした。


「合法的にいちゃつけるからって失敗しないでよ」

「するわけねっすから」

「そーだぞ及川!伊吹は魔法にはうるせぇんだから!」

「うるせぇは余計っすね」


及川と木兎はやはりいつも通りで、あの日からそういうところは変わらない。
伊吹はそれに少し安堵してから、牛島に抱きかかえられた状態で目を閉じる。魔力の流れを検知して、その僅かに孤立空間魔法に空いた穴からの供給を探る。

やがて、見立て通りに孤立空間魔法に穴が見えた。ごく僅かなそこから複数人が魔力をこのフロアに床に流していた。
その流れに沿って自身の魔力を流していき、そして孤立空間魔法の穴に達した瞬間、一気にその中に魔力を流して雷電魔法を展開した。雷電魔法によって生じた高圧の電流が壁の中から魔力を流していた者たちに直撃する。

すぐに伊吹たちを苦しめていた床の魔力は消えてなくなり、孤立空間魔法も消失した。伊吹は牛島から降りると、壁が消えて目の前に現れた扉を見つめた。透視すれば、中にはたった一人だけが広大な空間の奥に立っている。


「…ここっすね」

「行こう」


牛島は伊吹とともに歩き出すと扉に手をかける。後ろには及川と木兎が警戒しながら正面を睨みつけているようだった。

ついに、施設の中央に到達する。


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