第五話: Ground-Zero−19


それはつまり、伊吹の周囲にいる人間のうち、普通の人間は誰でも魔法使いになれてしまう魔法であり、周囲にいる魔法科兵も伊吹の魔力を摂取して取り込むことができるということだ。そしていずれの場合でも、伊吹に対する感情が大きくなると魔力が増幅する。
確かに、新宿の戦いでも昼神たちのような伊吹への感情が強い者は洗脳魔法がなかなか解けなかった。感情の強さがマインド系の魔法に関係するのはすでに実証済みだ。

理解した及川が、苦々し気に呟く。


「俺たちイニシャルセブンの魔力量が高すぎるのは、伊吹と一緒にいた時間が一番長いからか。そして日本の国防軍がやたら強いのも、VASNAの日本人幹部が強い勢力を持っていたのも、伊吹への感情が強いから」

「正解だ。そしてこの共鳴魔法こそが、VASNAを創設した理由だ」


今度は牛島も、そこまで考えが至っていたのか、硬い声音で応じた。


「伊吹を信奉する団体をつくることで、伊吹の共鳴魔法を受けた者たちの魔力量が増幅される」

「あぁ。それだけじゃない。この共鳴魔法は逆も然りだ。なぜなら、魔力を介して朝倉伊吹と影響を受けた者たちは繋がっている。そして共鳴魔法で魔法使いとなった者たちが朝倉伊吹への思いを強めれば強めるほど、朝倉伊吹の魔力量も増幅する」



比較的分かりやすい言葉だったからだろう、木兎も話は理解しているようだ。ラギーフを睨みつけて口を開く。


「VASNAを作ったのは、VASNAの中の伊吹が好きなメンバーの魔力を高めながら伊吹の魔力も高めるためってことか」

「そうだ。もともとイニシャルセブンのお前たちの感情によって朝倉伊吹の魔力量は急拡大していたが、ティクリートやパリ、ライプツィヒ、バンコクのように伊吹が派手に魔法を使った地域の人間も共鳴魔法の影響を受けていたから、VASNAがこれらの地域に拡大するとさらに増えたはずだ」

「VASNAの日本人幹部を洗脳したのはお前か」


VASNAが伊吹の共鳴魔法を組織的に発動させるためというのは理解できた。それではいったいどうやって、そのVASNA拡大の鍵となった日本人幹部たちを育成したのか。
伊吹の質問に対して、ラギーフは自分の胸に手を当てた。


「私は洗脳魔法は使えない」

「は…?ならどうして佐久早たちは…」

「私の魔法の神髄、それは『汚染魔法』だ」


また初めて聞いた魔法だ。恐らく洗脳魔法の亜種だろうが、汚染と洗脳がどう違うのか分からない。ラギーフは背後のデスクに浅く腰掛けるようにして体重をかけた。


「洗脳魔法の劣化版といっていい。汚染魔法はあくまで、少量の魔力によって意図的に思考や感情を傾ける程度のことしかできない。しかし洗脳魔法のようにオンとオフがはっきりするものではなく、共鳴魔法のように恒常的に作用することができる」

「それで佐久早たちの考えをコントロールしたってのか」

「あぁ。発動条件は洗脳魔法と同じ、相手に理解できる言葉で喋ること。洗脳魔法は挨拶程度で十分だが、汚染魔法はもっと長く喋る必要があるし、誘導もそれなりに論理的に長々と行う必要がある。そうしてやっと、相手を任意の思考に誘導できる。もちろん失敗することもあるが、それはお前の共鳴魔法がカバーしてくれたよ」


事実上、伊吹の共鳴魔法との干渉展開に近い。共鳴魔法で補強しながら、汚染魔法で思考を汚染していく。佐久早と古森は罪深い世界の中で伊吹だけが善となるように、大将と広尾、雲南と桐生は絶望の中で伊吹だけが救いとなるように。
そうして佐久早たちはVASNAに傾倒することとなり、伊吹への特別な感情によって自身の魔力も増幅させていく。


「その流暢な日本語は汚染魔法のためっつーことか」

「その通り。ティクリートから逃れたあと、お前を利用してVASNAによる囲い込みと洗脳を果たすべく、汚染魔法をかけるターゲットを選んだ。日本人であるお前に特別な感情を抱きやすいのは同じ人種であるのは当然だろう。たまたまお前たちが日本人だったというだけで、イタリア人ならイタリア語を学んだしロシア人ならロシア語を学んださ。だから日本語を学び、欧州の鉄鋼メーカーに就職して、東アジア支社に配属させるよう汚染魔法で仕向けてから極東に渡った。その後、ソウルで佐久早と古森、北九州で桐生と雲南、パリで大将と広尾に接触したわけだ」


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