最終話: people have been people−2
管制塔を降りた伊吹は、そのまま従業員通路を通って制限区域を出ると、回収された魔法兵器が置かれたエントランスに入った。カバーがかけられた兵器の周りにいるのは、茂庭と金田一、松川、国見、岩泉だった。怪我人が多く出た第五小隊では、他のメンバーは全員負傷して輸送機にいる。金田一だけが動けるまでにすでに回復していた。
「結構あるな」
伊吹が茂庭たちに合流すると、代理で第五小隊を指揮している茂庭が端末を示す。
「もうリストアップしておいたから今送ったぞ」
「え、ありがとうございます。助かります」
「まぁこんくらいはな」
茂庭は若干自己評価が低いきらいがあるが、戦時中から今に至るまで、茂庭のこうした仕事の速さは非常に助かっていた。これで一つ仕事が浮いた。
自分の端末でそれを確認していると、ふと視線を感じた。そちらを見れば、金田一が伊吹のことを見ていて、目線がばちりと合うとびくりと震えた。それ自体はどうでもよかったが、金田一だけ他のメンバーよりも発汗量が多いのを見て、やはり怪我が響いているのだと伊吹は判断した。
「金田一、さっき輸送機が着陸したところだから戻るぞ」
「へ……」
「無理すんな、怪我、だいぶ響いてんだろ。施設任務には出るな」
「いや、でも、」
金田一は大丈夫だと食い下がろうとしたが、伊吹の言葉を聞いた岩泉が途端に憤怒の表情を浮かべる。
「おい金田一てめぇ、やっぱ無理してやがったな…?!あれだけ大丈夫かって聞いてたのによォ…!」
「ヒッ…!!」
岩泉の般若面はよくあることなので、別にそこまで怒っているわけではないだろう。ただ、怖いものは怖いらしい。このまま怒られるのはさすがに可哀想だと思った伊吹は、「一等陸尉として命令だ」と付け加えてやる。魔法科兵としての経験こそ二次入隊組であるため浅い方だが、そもそも金田一は函館駐屯地所属の普通科連隊にいたのだ、伊吹よりも軍人としての経歴は長い。こうした上下関係には敏感だ。
「はい…」
案の定、諦めて金田一は伊吹についてくる。伊吹は茂庭に「後は頼みます」とだけ言って、金田一を連れて空港の横に広がる広大な空き地に向かった。
建物を出ればすぐに黒い機体が見えてくる。
「東京のテロ事件から、お前若干無理してんだろ」
「そんな、ことは…」
二人きりとなって、灼熱の平原を歩き出してから尋ねれば、金田一は薄い否定を返す。それに対して伊吹はじとりとした目線を高い位置に向けてやった。金田一はその目線に耐えきれなかったのか、弱々しく口を開いた。
「…新宿の戦いで、俺は洗脳が解けるの遅くなって、被害を多く出して京谷さんたちにも怪我させました。だから、人一倍働かなきゃって…」
「まぁ、そんなとこだろうとは思った。別にそれが悪いこととかじゃねぇけど、なおさら合理的に考えないとだろ。無理して倒れたら誰がお前を救護所まで連れてくと思ってる」
そうしたときに助けに向かうのは、最も機動力に優れており、かつ小隊に属していない特殊即応官である伊吹だ。当然それを理解している金田一はしゅんとしていた。怒られた大型犬のような様子に、伊吹はなぜか罪悪感が沸いてきた。ある意味で得なヤツだと思う。
「…でも、俺はお前のそういうところ、嫌いじゃねぇよ」
「え……」
「そういう純粋でまっすぐな優しさや誠実さって、触れると心地良いもんだからな。お前の長所だと思ってる。大丈夫、お前が無理しても国見や及川さんがフォローする」
伊吹はそう言って金田一の背中を軽く叩いた。金田一のそうした性格をよく理解している第五小隊のメンバーがきちんと限界になる前にフォローを入れるだろう。恐らく先ほども伊吹がこういうことをしなくても止めさせていたはずだ。
今回は単純に伊吹が輸送機に用があったからこういう役を買って出た形である。
すると、金田一が足を止めた。振り返ってその顔を見上げると、真摯にこちらを見つめた。
「俺も、伊吹さんのことが好きです」
牛島とのことを知っているため、金田一のこれは文字通り、気持ちを明らかにする告白でしかないのだろう。
「…ありがとな。お前にそう思ってもらえる自分が誇らしいよ」
ぐっと口元を引き締めてから、金田一は「はい」と返したが、その声はかすれていた。それでも、多くの感情を如実に伝えてくれていた。