最終話: people have been people−3
輸送機に入ると、すぐに察した矢巾が金田一を床に敷かれた簡易ベッドの布団に横たえた。機内には司令部のほか、矢巾と菅原が負傷した者たちのケアに当たっている。
伊吹は負傷した者たちの様子を見に来ていた。
今回のティクリート攻撃で負傷していまだに治療中なのは、第一小隊では月島と木下、第二小隊では五色、白布、大平、天童、第三小隊では猿杙と長尾、第四小隊では上林と野沢、白馬、第五小隊では京谷、渡、花巻、第六小隊では黄金川、作並、吹上、笹谷、第七小隊ではリエーフと芝山、そして第八小隊では角名と理石だ。すでに回復した者も含めれば、大隊の4割が負傷していた。
特に第一中隊で負傷した者たちは基地の孤立空間魔法を破壊した際のカウンター爆発で深い傷を負っている。第一小隊と第八小隊は、あの毒ガスの部屋で交戦した際に負傷した者ばかりだ。
「菅原さん、様子はどうですか」
「もう大方回復してるよ。明日には全員復帰できると思う」
「そうっすか」
それなら良かった。ほっと息をつくと、会話で起きたのか、むくりと黄金川が起きる。その巨体の動きにつられて、月島とリエーフも起き上がっていた。伊吹は3人が並んでいるベッドに向かう。
「おはよう、調子はどうだ」
「…伊吹さん……?」
寝ぼけている黄金川に対して、リエーフはすでに目覚めたのか「元気っス!」と返した。月島はもとより寝起きが悪いため、ぼんやりとしていた。いつも通りだ。
黄金川もすぐに覚醒し、月島も眠りが浅かったのか比較的早くに焦点が定まった。
「あんま無理はすんなよ。黄金川は魔力欠乏、月島は毒ガスで内臓やってるし、リエーフも骨折ったんだから」
「でもここが正念場なんで」
しかしすぐに月島がそう返した。月島がそう言うとは思わず、伊吹は少し驚いた。黄金川たちもそうだったのか、起こした上体を思い切り月島の方へ向けて、リエーフは骨に響いたのか呻いた。
「…いや、僕だって新宿のこと気にして、今回は頑張ろうくらいのことは思いますよ」
「まだ何も言ってねぇだろ…まぁでも、月島はそれでもちゃんと合理的に動けるしな。リエーフみてぇに張り切りすぎて敵に突っ込んでシールドが発動しなかったなんてことないもんな」
「うっ…知ってたんスか…」
「当たり前だろ」
リエーフが市街戦で張り切りすぎて敵の魔法に突っ込んで怪我をしたのは、すでに小隊長以上の全員が知っている。
「新宿でのこと、気にするなっつっても無理があるのは分かってる。でも、それで怪我されたら、あの日お前らを東京に連れ出した俺は立つ瀬がない」
特に黄金川は多くの死者を出しているため、かなり自分を追い詰めていた。それでもなんとかこうして元の調子を取り戻したのは、二口が同じ立場であったため共感してくれていたこと、それを茂庭たちが優しく受け止めていたからだ。第六小隊だからこそとも言える。
月島とリエーフは比較的早くに鎮圧されたため、特に大きな被害を出す前に正気に戻り、そこまで気負っていない。それでも今回の作戦では活躍しようと奮起してくれていた。
「…伊吹さんは、気持ちの整理ついたんですか」
いつも通り直接的な聞き方をする月島。ティクリートでラギーフを捕らえたことを受けてのことだろうし、深圳事変の直前にこの3人を含むメンバーに、かつて牛島に「殺してくれ」と漏らしたことを話したことも踏まえているだろう。11万人もの命を奪った自責に囚われ続けた伊吹が、けじめをつけられたのか、と。
「まぁな。牛島さんのおかげでもあるし、仲間のおかげでもある。一つのきっかけや1人のおかげじゃねぇけど、少しずつ、自分の罪と一緒に生きる覚悟を決められた」
「一緒に生きる覚悟…」
黄金川は反復して呟く。許して許される、というような簡単なことではない。伊吹を追い詰めたことや新宿で大きな被害を出したことを、誰に許されても自分が許せないからこそ無理してでも頑張ろうとしてしまうのだ。金田一も同じである。
「自分のやったことはもう変えられない。事実だからな。その事実とともに生きていく覚悟を決められるかってのが重要だ。お前らは、同じ小隊の仲間たちが一緒に背負ってくれるし、それを分かってるだろ。今はそれで十分なんじゃねぇの」
月島たちも、同じ小隊の仲間が一緒にそれを背負って支えてくれていることを知っている。今はそれだけで十分で、少しずつ、気持ちに整理をつけていけばいい。