最終話: people have been people−4
その後、伊吹は輸送機を後にして、別の魔法兵器集積場所に風気魔法で飛んだ。もう10年以上にわたり機能を停止しているキルクーク鉄道駅の貨物列車であり、車両内で多くの魔法兵器が発見された。鉄道駅は空港の南1キロほどのところに位置している。
駅に到着すると、市内各地から集積した他の兵器と合わせてホームに兵器が並べられており、周囲には集めた第三小隊、第四小隊、第八小隊がいた。伊吹の到着を確認した各小隊長は、施設任務に着くため空港へと向かい始める。
「あぁ、そうだ、昼神は残って伊吹と兵器の監視をしてくれ」
すると突然、諏訪がそんなことを言い出した。昼神は少し驚いたようにそちらを見る。諏訪はいたずらっぽく笑っていた。恐らく伊吹と一緒にいられて良かったなということだろう。
そんな諏訪に続いて、北も真顔ながら「せやなぁ」と頷いた。
「侑、お前も残れ」
「え、ホンマですか」
意外とそういう茶目っ気がある北の指示に、侑はぱっと顔を明るくした。それを見た木兎もやかましく口を開いた。
「お!じゃあ赤葦も残っていいぜ!」
「…木兎さんまで……」
呆れたようにする赤葦。伊吹も何をやっているんだこの人たちは、と呆れてしまう。
空港へと歩き始めながら、アランは笑って侑に声をかけた。
「侑!牛島から奪ってみぃ!無理やろうけどな!」
「いや応援するならちゃんとしたってくださいよ!」
「赤葦も頑張れよ!まぁ牛島より強くなってからじゃねぇとだけどな!」
「無茶ぶりにもほどがある…」
「幸郎もせいぜい頑張れよー」
「光来君、興味なさそうなの隠しもしないじゃん…」
どうやら各隊は伊吹の恋人の座を狙うよう発破をかけているようだ。とはいえ応援とも言えない声援だったが。
お節介な隊員たちがいなくなり、あとには4人だけとなる。
「……いや、俺が一番気まずいじゃねぇか」
ふと気づいてそう言うと、侑と昼神が噴き出した。赤葦も肩をふるわせている。伊吹は笑っている3人にため息をついて、ホームに並べられた兵器のリストアップを始めた。
動き出した伊吹に気づいて、赤葦が隣に来て手伝い始める。侑と昼神はこうした作業には慣れていないため、見るだけになる。
伊吹は端末に兵器を打ち込みながら、隣の赤葦をそっと見上げた。視線に気づいた赤葦は首をかしげる。
「どうかした?」
「…さっき、金田一とか黄金川とかと話してたんだけどさ。やっぱ新宿でのこと気にしてたんだよな」
「あぁ…そうだろうね。俺も、1人になるとまだきついし」
「そっか……」
赤葦は作戦中こそ平気そうにしているが、やはり心に負った傷は重い。特に赤葦は最も多くの犠牲者を出した。伊吹たちの会話を聞いていた侑と昼神も真面目な顔になる。
「俺らも洗脳解けんの遅なってもうたからなぁ。あんま気にしてもしゃあないて分かっとってもこればっかりはなぁ」
「俺はもう吹っ切れたけど、やっぱ悔しいよ。ちゃんと最後まで伊吹のこと守りたかった」
侑と昼神も、諦観の滲んだ声で言った。金田一たちとは1歳差でしかないが、魔法科兵としての経験が長いこともあるし、伊吹と前から距離が近かったからだろう、気持ちの整理はやはり上手だと言える。それでも、やはり精神的にはまだしんどそうだ。
「俺が言うのもあれだけど、しんどかったら言えよ。別に、なんかできるとかじゃねぇけど…」
頼ってくれと言ったものの、コミュニケーション能力が低い伊吹にできることがあると思えず、尻すぼみになってしまった。しかし、それを聞いて赤葦がおもむろに伊吹を抱き締めてきた。
「ありがと伊吹」
「うお…なんだよ」
「ちょーっと赤葦クン?何してんねや」
そんな赤葦に侑は圧をかけて、昼神は無言で赤葦を引き剥がした。3人は唐突にバチバチを火花を散らす。
「…お前ら、結構元気だな」
あまりにもいつも通りであるため、伊吹は思わずそう言うと、3人ともこちらを見遣る。
「伊吹が前向いて歩き出してんねやもん、俺らも後ろ見てばっかやあかんやろ」
侑の言葉に頷いた赤葦も続いて口を開く。
「まぁ、整理つけるの難しい部分もあるけど、伊吹の方がひどい目に遭ってもこうやって毅然としてるからこそ、俺も励まされたんだ。伊吹が伊吹であるだけで、頑張れるんだよ」
「俺も他ならぬ伊吹が前を向いているのを見て、自分も頑張ろうって思えた」
昼神も赤葦に応じる。3人とも、伊吹がティクリートのことを受け入れて前を向いている姿に、自分たちも同じように後ろばかり見ていないで生きていこうと思えているのだと言う。伊吹は、いつも自分を支えてくれた3人にこう言われてどう反応すればいいのか分からなくなる。
「……ずっとお前らに助けられてきた。だから俺は前を向けた。なのにそう言われたら、なんつか、どうすりゃいいのか分からなくなる」
「俺らやろうと牛島さんやろうと、助けられたんかもしれへんけど、努力したのは伊吹やで。ちゃんとそこんとこ、自分のこと褒めてやらなあかんで」
侑にそう言われて頭を撫でられる。牛島や及川、木兎はもちろんのこと、この3人だっていつも伊吹のことを支えてくれた、特別な者たちだ。そんな彼らに少しでも返せているのなら、伊吹はまた少しだけ、自分のことを肯定的に思える気がした。