最終話: people have been people−5
やがて一連の任務が終わり、全員が建設された野営地に戻った。魔法兵器はすべて野営地の倉庫に格納され、交代で見張り孤立空間魔法シールドで倉庫ごと覆っている。
空はまだ明るく、太陽は黄色がかった色で荒野の大都市を照らす。何もかも土色のこの街を眺めていると、野営地のテントから何人かが出てきた。メンバーのほとんどが休んでいるため、どうしたのかと視線をそちらに向ける。
出てきていたのは、なんと牛島、及川、木兎の3人だった。
「どうしたんすか」
「烏養さんが車の使用許可を出してくれた。久しぶりに街を見てきたらどうだ、と言っていた」
「え、そうなんですか」
「そうそう!伊吹も行こうぜ!」
どうやら烏養の計らいで、市街地に出ていいと許しが出たようだ。
かつてNGOだった頃、UNIASSMとしてこの4人で行動することが多かった。木兎の誘いに頷いた伊吹は牛島たちに連れられ、国連から借りつけている乗用車に乗り込む。
運転席に牛島、助手席に及川、後部座席に木兎と伊吹という位置もあの頃とまったく同じだ。あの頃は、牛島たちの制服は茶色い陸軍のものだったが、今は紺色の魔法科兵のもので、そして伊吹も同じ制服を着ている。
いろいろなことが変わってしまったのに、車内の光景があの頃と同じで倒錯的ですらあった。
「伊吹、行きたいところはあるか」
そして同じように、牛島が行き先を確認する。伊吹は少し考えて答えた。
「まずは、そうっすね、宿泊してたホテル見に行きたいっす」
「分かった」
牛島は地図を確認することなく車を発進させた。場所は覚えているらしい。
空港に面した通りから市街地に入っていき、やがてシャリー・アル・マリク通りに入っていく。窓の外の街並みを見ていると、やはり変わったな、と伊吹はぼんやり思った。
激戦地となった市街地は甚大な被害を受けたままで、通り沿いの建物でもところどころ崩れたままの瓦礫が残っている。整備されていた歩道は剥がれて土が剥き出しとなっており、建物が崩れた廃墟が残っている。
しかし道行く人々はあの頃と同じだった。やはり戦争慣れというやつで、人々は変わらずに歩いている。車の無秩序な走り方も同じだ。
「着いたぞ」
すぐにホテルにたどり着き、車はホテルのピックアップゾーン近くに止まる。伊吹が宿泊していた高級ホテルだったが、ホテルの建物は内部が崩落し、壁だけが残っていた。周囲に人はおらず、廃墟として残っているだけのようだ。
「…こういう壊れ方していると、壊すのも直すのも大変なんすよね。しばらくはこのままかもです」
「背の高い建物は優先的に狙われるからねぇ。しょうがないね」
及川も廃墟を見上げてそう言った。撤退の日、このホテルの部屋で牛島にもたれたのが、牛島との近しい関係の始まりだったのかもしれない。
「…伊吹、次はどうする」
「……そうっすね、じゃあ、俺が授業した学校を回りたいです」
「そうか。ここから近いのは、最後に通っていた総合病院近くの高校だな」
「よく覚えてんなー!」
木兎の言葉に、牛島は「伊吹のことだからな」とのたまった。さすがの木兎も、惚気発言に呆れていた。
車は再び走り出し、通りを北上して右手にカサ川と、前方にキルクーク城塞が見えてくる。歴史的な価値があるキルクークの城塞は形を保っていて、攻撃対象とならなかったのが分かる。それに少し安心した。
しかし周辺の街並みはだいぶ破壊されていて、立て直された新築の建物も目立つものの、被害の大きさが窺える。高校も残っていないかもしれない、と思いながら車窓を眺めていると、車は総合病院の先を曲がって、最後に伊吹が授業をしていた高校にたどり着いた。
窓から前方を見ると、高校の周りに人がおり、窓から授業を受ける生徒たちも見えて伊吹は驚く。
「え、あの高校ちゃんと機能してますね」
「レベル高い学校だったもんね」
及川は助手席から意外そうにしつつ答えた。車は高校の敷地に入り、校舎の前に停止する。建物の様子を見るに、どうやら戦時中も攻撃を受けなかったようだ。