第二話: פרו ו:רבו ו:מלאו את־ה:ארץו:כבש:ה−5
訓練はその後、小隊ごとに分かれて通常訓練に戻り、18時には寮に戻った。むさくるしい入浴を済ませれば、わずかな自由時間となる。
伊吹は夕食なども終えて一息つき、やっと一人になれると自室に向かって武骨な廊下を歩いていたが、途中の談話室から突然腕が現れてひっつかまれる。「うお、」と声を上げて引っ張られるのに任せると、ぽす、と誰かの胸板に倒れこんだ。
「伊吹捕獲〜」
「……昼神、」
ニコニコとして20センチ上から見下ろしてくる昼神に捕まったようで、その緩い拘束は大したものではなかったが、抵抗するのも面倒でされるがままになる。するとその後ろ、談話室の中から騒がしい声が聞こえてきた。
「でかしたで昼神君!伊吹の気配がする言うてんの聞いたときはキッショて思うたけどな!」
「侑君さぁ、伊吹の訓練後のジャージ持っていこうとしたの知ってるよ?」
「うわ気持ちわる」
「いやなんで知ってんねん!てか二口君シンプルにひどいな!!」
昼神の腕の中から室内を見渡すと、談話室の向かい合ったソファーには、左側に侑と二口、右側に赤葦と田中、西谷が座っていた。同い年の世代が集まっているようだった。このメンバーに巻き込まれるのは今に始まったことではないので、もはや伊吹は諦めている。
「治は?あと青根」
「治はまだ食堂で飯食うとるで〜」
「青根はもう寝たに決まってんだろ」
「そして弧爪のことをしれっと聞かない伊吹」
治の片割れ侑と青根のニコイチ二口が答える。赤葦は伊吹が弧爪のことを聞かなかったことをツッコんだが、やつが自室でゲームをする時間を邪魔されると怒るのを知っているため、誰もが「当然だろう」と思っていた。
「あーあ、訓練で伊吹の魔法久しぶりに見れると思ったんだけどよォー」
すると、田中が残念そうにため息混じりに言い、侑が「それな〜」と返す。隣の西谷はニヤリとしてこちらに指を突きだす。
「次は俺の孤立空間魔法で止めてやるぜ!」
「あ、じゃあ俺と西谷君と二口君と青根君で直列する?」
勇む西谷に昼神がノるが、二口はそれを鼻で笑った。
「そのメンバーでリンクできるわけねえだろ」
「そらそやろなぁ!」
個性の強すぎるメンバーに、侑も笑って否定した。伊吹も無理だと思っている。それだけ、直列魔法は相性が重要なのだ。
「つーかお前ら、ほんと今さらだけど、俺の階級一応お前らより上だかんな」
「今さらすぎない?」
常識人の赤葦にすら言われ、他のメンバーにも何を言っているんだという目で見られる。
実は伊吹は、こう見えて少尉なのだ。そして、特殊即応官という役を持っている。
特殊即応官とは、言ってしまえばはみ出し者だ。魔法の力が強すぎる伊吹の存在は味方の連合国だけでなく日本国内ですら脅威だと認識されており、いざというときは米国など他国の軍の隷下に入れるよう、この役職になった。そのため、伊吹に指示を出せるのは中尉以上、現時点では烏養をはじめ溝口、直井、牛島だけだ。
本来ならば同い年といえどこうも気安く接することは許されない。
別に気にしていないが、溜息をついた。
「ほんとに軍人かよ。文民上がりの俺が言うのもなんだけど」
「俺らやって似たようなモンやで、ほぼ文民やし」
そう言った侑の言葉に全員が頷いた。まぁそういうものか、と伊吹は全員の過去を思い出す。
中東戦争による第三次石油危機と中印戦争によるシルクロードショックの煽りを受けて空前の大不況となった日本では、失業率が20%に達し、国防軍に入隊する若者が増加した。
入隊してすぐに魔法使いが実用化され募集を開始、そうして、軍隊の規律に染まり切っていないまま、この自由な無法地帯である特兵連に入ってきたわけだ。
とはいっても、訓練中はきちんと上官の指示に従っている。先日のソウルでの任務も、昼神や二口とともに伊吹も自由にやっていたが、黒尾の指示には従っていた。