第二話: פרו ו:רבו ו:מלאו את־ה:ארץו:כבש:ה−6
立ち話もなんだし、と昼神に連れられソファーに伊吹も向かわせられたが、もともと3人掛けのソファーには侑と二口と昼神がいたのだろう、開いているのは一か所だけだ。
そこに昼神が座ると、当然のように伊吹を自身の膝の間に座らせようとしてきた。
「…や、なにしてんだお前」
「???」
「分かれよ」
何を言っているのか分からない、という腹の立つ顔をした昼神の肩を殴りつつ抵抗するが、昼神は伊吹を膝の間に座らせようと引っ張り続ける。そもそもなぜこうして昼神が伊吹にベタベタとしてくるのか分からなかった。それは昼神に限った話ではなく、同じイニシャルセブンと称される他の6人や、二口、赤葦、宮双子などもそうだ。というか、概してこの中隊のメンバーは伊吹に対してやたら特別扱いをしてくる。
「嫌がっとるやん!伊吹、俺んとこ来ぃや」
「俺んとこ来るか?」
さっそく隣の侑が自分もと名乗り出て、その隣に座る二口もニヤニヤとして言ってくる。侑はともかく二口は完全にからかっていた。
「俺んとこでもいいぜ!」
「ノヤっさんじゃ逆に抱きしめられる方だろ〜。俺んとこ来いよ」
「いや、俺が一番安パイだって」
さらに反対側のソファーから、西谷と田中、赤葦も乗ってきた。田中の言う通り、西谷相手だと立場が逆だろうと思う。キレた西谷に田中は殴られていた。赤葦は自分で自分が一番安パイだとのたまっているが、冷静な常識人に見えて赤葦は相当むっつりだ。以前に突如としてうなじを舐められたときは本気で魔法を使いそうになった。
そこで伊吹は、実は常識人である二口を選ぶことにした。どうせからかっているだけの二口だ、伊吹が行くことで少しは嫌がらせくらいにはなるだろう。
そう思って伊吹は無言で二口の膝の間に無理やり入って座る。背中に逞しい上体が触れた。二口は少し驚いているようで、ざまあみろと気が晴れる。
しかしその直後、二口は伊吹を後ろから抱きしめるなり、シャツの裾から手を突っ込んできた。肌を這う二口の武骨な指にびくりと震え、伊吹は「お、まえっ!」と声が裏返る。
「何してんだおい!」
「いや、だって俺んとこ来たの伊吹じゃん。抱いていいってことっしょ?」
「はぁ!?」
からかっているだけだと思っていたが、完全に寝首を搔かれたような気分だ。伊吹は必死で這い上がろうとしてくる二口の手を止めようとするが、その指が胸の先を引っ掻くと、つい鼻にかかったような声が漏れる。
「んっ、く、そが!!」
「かわいーじゃん」
にやりとした二口を止めようとする者はおらず、全員が食い入るようにこちらを見ている。確かに寮では女日照りというものかもしれないが、それにしてもこんな不毛なものを見て楽しいのだろうか。伊吹が魔法の行使も視野に入れたところへ、談話室に新たな人物が現れた。
「お疲れ〜、って何やってんのにろちゃん!?」
現れたのは及川だった。軽い言動もあって年下からナメた態度を取られることが多いが、実力は本物で、そういう意味においては決して誰も逆らわない相手だった。誰もが引き際を必ずわきまえる相手ともいえる。そこはやはり、イニシャルセブンに属する戦闘経験者だけある。
及川はすぐに軽い殺気を二口に向けた。とりわけ伊吹に関することでは及川の沸点は低くなる。二口はさすがに、すぐに伊吹から手を離した。伊吹は慌てて立ち上がると、及川に抱き着く。面倒なやつらから離れようという意味ももちろんあるが、及川を落ち着かせるためでもある。
ぎゅ、と正面から抱き着けば、及川は優しく抱きしめ返してきた。後頭部を撫でられ、伊吹はつい安心して息をついてしまった。キルクークにいたときからティクリートに連れられたとき、さらに帰国後の連合国による検査の間もずっと、イニシャルセブンの中でも特に牛島や及川がそばにいてくれたからだろうか。
及川も満足したのか、調子を元に戻して、ここに来た本題を果たすことにしたようだ。無言でテレビをつけると、画面はすぐにニュースが映し出された。
「みんな注目。EUと英国はロシアとの全面戦争を回避するみたい」
全員の視線がニュースに向く。伊吹も画面を見て、少し目を見張った。
北朝鮮によるソウル砲撃の直前まで、ロシアはヘルシンキへの砲撃を行っていた。それを停止し、ロシアはフィンランドを占領。EU加盟国のうち8か国がロシアとトルコによって占領されることになった。しかし欧州は、世界が思っているよりも遥かに、第二次世界大戦の再来を恐怖しているらしい。もう欧州を戦場とすることは避けるべく、EUはなんとロシアに対して占領地の奪還戦争をしないことを通達したのだ。
その代わり、EUは国連による監視団を占領地に派遣させ、ロシア占領下の国においても人権が保護され生活が保障されるよう監視を受けることを求めた。ロシアは戦争にならないならとそれに応じ、国連によって、国連ロシア占領地監視団
UNROTOM(United Nations Russian Occupied Territory Observation Mission)が派遣されることに決まった。世界大戦なのに国連が監視する、というちぐはぐな展開だった。
「これでロシアは西方の安定を得た。東欧平和会議と占領地によってロシアは西部戦線で敵と陸上国境を持たない上に攻撃される恐れもない。となると、東部戦線へ注力することになる。極東戦争が激化するね」
北朝鮮と韓国との間で勃発した第二次朝鮮戦争、そして中国が侵攻を開始した台湾とベトナム。台湾海峡では台湾軍と米軍、フィリピン軍、カナダ軍が、東シナ海からベトナムにかけてはベトナム軍と米軍、フィリピン軍、豪州軍が連合国として戦っている。ロシア・中国側には北朝鮮、ミャンマー、ラオス、カンボジアが参戦していた。
規模としては、やはり大陸領土が近い中国とロシアが優勢で、これでロシアがこちらに追加兵力を投じるとなれば苦戦を強いられる。
それはつまり、いまだに世界に対して存在が隠されている連合軍の特兵連の活躍が近いということでもあった。