第三話: the 2nd Battle of Hakodate−2


ジェットエンジン双発型の直列孤立空間魔法術式装甲輸送機、SIA-812の機内は、人数に対して沈黙に包まれていた。
先日のソウルでも使用した装甲車SIA-87も同じく直列孤立空間魔法術式装甲車であり、同様に真っ黒な外見をしている。Sは直列魔法、IAは孤立空間魔法を示す記号で、8は乗り物を表す。最後の桁が開発番号だ。

現在、連合軍統一特殊兵科連隊第二中隊にして国防陸軍所属の軍人41名は、大型輸送機によって富士駐屯地から北海道へと向かっていた。機内の壁面に沿って25名ずつ座れる対面式の席はほぼ埋まっている。

特兵連の迷彩服は、紺色をベースに濃紺や深緑で迷彩柄がつくられており、黒いブーツ、ホルスターのついた黒いベルト、体の各関節を覆う黒いカバー、そして黒いフィンガーレスの革手袋という構成だ。背中にはサブマシンガンであるMP7を背負っており、ホルスターには拳銃のグロック19が収まっている。


機内には沈黙が満ちているものの、各自の無線は機外に取り付けられ孤立空間魔法に覆われていないアンテナからひっきりなしに日本国内の国防軍の無線や連合軍の無線を拾っていた。


『こちら国防空軍第8航空団、北九州市上空で被害状況確認、関門海峡大橋の崩落を視認した!』

『Emergency! Shimonoseki Station area is now being bombed! Evacuation is still initial phase! Over!(エマージェンシー!現在下関駅地域が爆撃されている!避難はまだ初期段階だ!送れ!)』

『国防海軍司令部より通達、海軍函館基地隊との交信途絶』

『All station, Aegis and Patriot in Okinawa lost their work. The main island is under heavy air strike.(各隊へ、沖縄のイージスとパトリオットは機能を喪失。本島は激しい空爆に晒されている)』


中国政府は、厦門への台湾からの攻撃を理由に、米国と台湾の同盟国に対して国を問わず攻撃することを宣言。事実上の日本への宣戦布告と捉えられて国内が大騒ぎになった直後、北九州市と下関市、青森県と北海道の沿岸、そして沖縄への攻撃が始まった。敵の狙いは簡潔だ。すなわち、関門海峡と津軽海峡の断絶、そして沖縄米軍基地の破壊である。

機内前方のモニターに映し出された現在地は宮城県南部、すぐに津軽海峡の交戦空域に入る。その前に、烏養が立ち上がって全員の注目を集める。


「総員注目!」


飛行中のため着席のまま、全員が烏養に視線を向けた。


「中ロ枢軸国の狙いは津軽海峡と関門海峡の遮断だ。目的は韓国での攻撃方法を見れば分かる。日本の国力を戦後も維持できるようにしつつ交戦できなくさせるつもりだろう」


国防軍内では分析がかなり進み、中国の狙いが分かってきている。中国は、韓国において工業生産能力を破壊しないよう北朝鮮に指示しているようだった。日本に対しても、弾道ミサイルによって工業地帯や都市部への攻撃をしようとしていない。

最初から各国は戦後を想定しているのだ。

つまり、中国は東南アジアや中央アジアに対しては「代わりがいる」と考えている。しかし、日本と韓国と台湾には代わりがいないのだ。中国にとってこれらの国は自身の産業に必要不可欠で、それぞれの国の強みである半導体や様々な中間財、製造機械などに強く依存している。本当なら戦争はしたくなかっただろう。
そのため、ソウル砲撃や台北封鎖という首都機能の破壊にとどめ、社会機能や工業能力にはダメージが出ないような戦い方をしている。

東京は破壊するには巨大過ぎることや、華僑組織が強いため、手を出さないのだろう。そうなると、日本に対して打てる手は、すなわち兵糧攻めである。
一大農業地帯である北海道を閉鎖し、豊かな九州を切り離すことで、厭戦ムードを高めて継戦能力を削ぐのだ。戦後、海峡の復旧は日本であればそう難しくはない。


「だからと言ってはいどうぞとはいかねえ。俺たちには守るべきモンがある。敵艦隊によって封鎖、占領されようとしている函館を解放し、津軽海峡を守る!それが俺たちの初仕事だ。直井、状況確認」


直井は頷くと、烏養に代わって前に立つ。烏養が着席してから、状況確認を開始した。


「敵航空戦力は師団級、現在九州と沖縄では国防軍が地対空迎撃を行っている。主要なミサイルはイージス艦および山口県のイージスアショアが迎撃したが、市街地の被害は甚大だ。一方、津軽海峡には敵艦隊が二個師団級で展開、先攻によって東北方面の国防軍基地の被害は激甚。機能をほぼ喪失し、函館市街地に陸上部隊が上陸している。すでに占領されたとみていい」

「連合軍の戦力は」


溝口が直井に尋ねると、直井は手元の端末をちらりと確認する。


「米軍がスクランブルをかけている。九州戦線と沖縄戦線はとりあえず米軍と国防軍本体に任せている。東北方面は米海軍とオーストラリア海軍の潜水艦が急展開しているが、到着には数時間かかる」

「ねえ烏養君、内閣と幕僚は俺らの出陣にアメリカ様の許可取ったわけ?」


すると及川が烏養にそう確認した。正式な命令による出動はこれが初めてとなるが、それは特兵連全体に言えることだった。正規戦としてはこれが魔法使いの世界初の実戦投入となる。


「米国大統領と連合軍の指揮官、現場の兵士には通達済みだそうだ。あくまで自衛行動だしな、連合軍の他の魔法使いは来ねえ。恐らく、国民への発表もないんじゃないか」

「ふーん、でも隠れる必要もないんだ」

「あぁ。噂にはなるだろうが、ま、誰も信じねえだろうな。実戦投入された魔法使いを見て枢軸国がどう出るか、まずはそれを確かめたいんだろ」

「了解。好きにやっていいってよ、お前ら」

「っしゃあー!!!」


喜ぶ木兎に全員苦笑する。これまで、ソウルでの伊吹たちの活動のように隠れて行動していたものが、いよいよ本気の戦略活動が可能になったのだ。それぞれ、やる気に満ちているのは確かだった。


「いずれにせよ、最優先は人命だ。各自自身の命、次に国民の命だ。都市空間への配慮も忘れんなよ」


いよいよ輸送機は交戦空域に突入する。この機体にいる限り攻撃を受けても何も感じないだろうが、気が引き締まり、ごくりと唾を飲み込んだ。


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