第三話: the 2nd Battle of Hakodate−5
明光はそう言い残して走っていった。車で駐屯地に向かうのだろう。
もうひとつの4人の目的、それは4人の旧友である影山飛雄が同じく第28普通科連隊に所属する軍人で、今日がオフだったため会いに行くことだった。空港への迎えは明光で、影山は昨晩が遅かったそうで午後から会うことになっていた。今頃、寮で飛び起きて制服に着替えていることだろう。
4人は明光の後を追いかけるように駐車場へと向かう。外からはサイレンを聞いて駐車場にいた人々が続々とターミナルに入ってきていた。その流れに逆らって外に出る。11月の北海道は、すでに冬の空気だった。
言われた通りに左へ曲がって道路を歩きながら、月島は明光の意図を考えていた。頭のいい月島は、国道63号へ折れる道を右に向かって小さな道を北へと進み始める頃には明光の言っていたことの意味を理解した。
「ツッキー、明光さんの言ってたこと分かった?」
「うん」
「さっすが!」
「おお、やっぱすげーな月島」
山口と日向が手放しに言うが、月島はそれを気にせず北側の丘陵地帯を眺める。考えていることが正しければ、なんで今日に限って、と思わずにはいられない。
「…兄ちゃんが言ってたけど。枢軸国、特に中国は、日本に対して徹底的に戦いたいわけじゃない。経済的に日本に対してかなり依存してるから。日本の経済力を損なわず、でも戦争から離す。そのためには、日本人が反戦機運を高める必要がある」
「戦争反対っていう世論にするってこと…?」
谷地が昨今の情勢を振り返って疑問を浮かべる。日本は元から戦争反対の立場を崩していない。
「アメリカとの同盟を捨てて中立に回るってこと。そのために、北海道をわざわざ攻撃する理由があるとすれば、日本の食糧供給を滞らせて国民を現実的な危機に晒すためってのが自然。そうすると、弾道ミサイルなんて金のかかるもので攻撃するより、巡航ミサイルで軍事拠点だけ制圧する方がいい」
「兵糧攻めということですね…!」
谷地は理解して震える。日向はあまり分かっていないようだったが、「食いもんなくなるのは困るな」とつぶやいた。もはや呆れることもなかった。
田舎道を歩きながら月島は言葉を続ける。
「北海道を切り離して食糧供給にダメージを与える。そのためには、津軽海峡を封鎖しなきゃいけない。でもこれだけ全世界で交戦しているから、津軽海峡なんかのために艦隊を固定させたくもない。艦隊による物理的な封鎖を極力小さな軍備で行うには…」
「……人質、ってこと?」
山口は顎に手を当てて考えて、月島と同じ答えに至った。
「多分ね。沿岸部の街に上陸して、住民を人質にとって、交戦すれば犠牲者が出る状況にする。それによって海峡封鎖を小さい戦力で実施して、日本人にEUみたいに占領地奪還のための戦いをしないよう政府に求めさせ、やがて戦争そのものからの完全な離脱も求めさせる」
「なんか、変な戦争だな」
日向の言葉はアホっぽいが、しかしまさにその通りである。従来の戦争とはまったく様相が異なる。これが現代の戦争ということだろうか。
「ってことは、月島君のお兄さんは函館に上陸されることを警戒して、山間に逃げるように言ったってこと…?」
「そうだと思うよ。この街、占領しやすいし」
地形的に囲みやすい街であるのは確かだ。沿岸から離れるよう指示したのもそうだろう。ミサイルが迫る中ですぐ逃げるよう言ったのは、空港自体が標的になる可能性があることも考慮しているはずだ。
明光も影山も、これから本物の戦争に身を投じることになる。月島が珍しく、心配の念で眉間にしわを寄せたときだった。
後方、すなわち市街地の方から、突然おどろおどろしい轟音が響いてきたのだ。雷のような音に驚いて振り返ると、うっすらと空港の建物の右手、市街地の方から黒煙が立ち上るのが見える。
「っ、あれ、駐屯地の方だ…」
「えっ!?」
月島が息をのむと、日向が驚いて月島の顔と煙を交互に見遣る。明光は車で駐屯地に向かった。巻き込まれている可能性があり、影山は特にそうだった。谷地は口元を両手で抑えて震える。
直後、市街地から上空に向かって砲撃が始まった。空の雲よりも低いところに小さな爆発が立て続けに起こる。遅れて爆発音が聞こえてきた。
さらに、空を切り裂く音とともに戦闘機が急速に接近してきた。飛行機が真上を通り過ぎるときのような音のフェードインが、より大きく、低く、そして速く聞こえてくる。その音がどんどん大きくなる中で、再び市街地から黒煙が立ち上った。遅れて大きな爆発音が轟く。その音のあと、市街地から対空砲が放たれることはなかった。