第三話: the 2nd Battle of Hakodate−7


函館市・函館山。

第二中隊を乗せた輸送機は、あらゆる攻撃を孤立空間魔法装甲によって防ぎながら悠然と函館山山頂にホバリングモードに入った。ジェットエンジンとプロペラを併用する輸送機は、ヘリコプターの要領でホバリングしながらゆっくりと開けた駐車場に降りていく。山頂に敵部隊がいることは分かっていたが、対空砲火は伊吹が可視化魔法による透視で座標を特定し、独立魔法によって爆破した。部隊が展開している山頂に砲撃するわけにはいかず、一定の距離になったところで艦隊からの砲撃はやんだ。

事前に伊吹が透視した結果、展望台含め山頂には民間人はいなかった。死体もなかったため、敵は殺さずに下山させたのだと分かる。銃弾がもったいなかったのだろう。この状況は国防軍側にとってもやりやすかった。


「ドアオープン、第一小隊進め!」


烏養が叫ぶと、後方のハッチが開いていき、視界に駐車場と青い海が見える。その瞬間、機内に一気に機銃掃射が浴びせられた。しかしそれより早く第一小隊の茂庭、鎌先、笹谷、青根、二口が直列孤立空間魔法を展開していたため、銃弾は届かない。視界はすぐに真っ黒な壁に阻まれた。

その壁の後ろで、及川は独立衝撃魔法を展開し、機体の前に広がっていた兵士たちを吹き飛ばした。男たちの悲鳴が聞こえてくるはずだが、壁によって銃弾の音すらかすかにしか聞こえない。聞こえてくる音は壁と機体の隙間から聞こえてくるもので、それだけこの壁が機体の内側に沿ってぴっしりと広がっていることを示していた。相変わらずの展開精度である。

及川は可視化魔法が使えるわけではないため敵の座標は分からない。それでも、一瞬だけ見えた駐車場を記憶して正確に敵を吹き飛ばしたようだ。伊吹が透視して確認すれば、輸送機の正面は敵がすべて沈黙していた。伊吹は溝口にアイコンタクトを取って大声でそれを告げる。


「ハッチ前方クリア!」

「防御解除、進め!」


第一小隊の隊長である溝口の掛け声で、壁はなくなり第一小隊が一気に飛び出す。それに続いて第二小隊、第三小隊と広がっていく。隊内の無線はすでにオープンのため、以降は叫ばずともヘルメット附属の無線でやり取りできる。


『展望台施設から1個小隊分接近中、展望台屋上に上がる2個小隊分もすぐに射撃体勢に入れる』


その無線から弧爪の淡々とした状況報告が入る。弧爪は俯瞰視点で可視化魔法による索敵をしながら自分も動くことができた。伊吹は酔ってまっすぐ動けなくなるため、俯瞰索敵は立ち止まって目を閉じなければならない。本人は「ゲーム慣れ」などと言っていたが、そういうことではないと思う。

伊吹も壁の向こうや屋上の様子を一人称視点で透視しながら、全員の後ろを進んでいく。基本的には第四小隊にいる烏養の指示を待つ。

その烏養から無線が入った。


『朝倉、浮遊攻撃。夜久、弧爪の指示で屋上に閉鎖空間』

『了解、研磨頼んだ』

『了解。鉄塔を正面に7時から1時の方向に直線』

『了解、独立閉鎖空間魔法展開。朝倉いいぞ』

「了解しました。いきます」


短いやり取りのあと、伊吹は足元に風を纏うと一気に空気中に浮きあがった。原始風気魔法という元素系のひとつで、空気や風を操る魔法である。それによって伊吹は飛ぶことができた。

建物内部から銃撃音が響く。直後、爆音や衝撃波がガラスを砕く音がそれらをかき消す。風に乗って「ヘイヘイヘーイ!」と聞こえてきて思わず苦笑する。赤葦がフォローしながら静かにキレていることだろう。

伊吹が浮き上がって屋上を3メートルほど高いところから俯瞰していると、展望台内部からずらずらと兵士たちが駆けあがってきた。兵士たちは宙に浮いている伊吹を見てぎょっとしたあと、発砲を開始したが、そこから伊吹の間には夜久が展開した閉鎖空間魔法が壁のように存在しているため、銃弾は弾かれる。物質をやり取りしないだけの空間のため、きちんと向こう側が見える利点があるが、熱などは伝わってしまうため近づくべきではない。伊吹はその性質を利用して、フィンガーレスの黒い革手袋から出した指先を敵に向ける。その指先から、光のレーザービームを撃ち出した。

これは光電子魔法といって、光や電子を操る魔法である。射程距離を調節しないとどこまでも貫通していってしまうため、敵の体を次々を貫くのみにとどめた。階下では味方も戦闘中だ。

衝撃魔法によってレストランが吹き飛んだのか、窓ガラスが割れてテーブルクロスが飛び上がるのが見えた。そのころには屋上は完全に沈黙し、敵兵士たちは血を流して倒れていた。

ぶるり、と震えて、伊吹は思わず手を押さえる。冷えた指先は、11月の北海道の寒さによるものだけではない。


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