第三話: the 2nd Battle of Hakodate−9




「地対地パルス術式展開……!」


伊吹が使える中で最も複雑な魔法を組み立てていく。最近、連合軍内部で魔法を共有するデータベースに登録したばかりの、伊吹だけが使える魔法だ。まだ使用実績は浅いが、烏養の言う通り、それは今更だろう。魔法なんてどれもそんなものだ。

すると、可視化魔法でそれを見ていた者たちが口々に驚きの声を上げ始めた。近くにいた天童は「うっは、やべ〜」と楽し気に言い、階下の黒尾と弧爪は「ええ…」と引いたような声を出す。侑も、「さっすが伊吹やなぁ」と遠い目で言い、赤葦と茂庭は階下で解説を始めていた。


「そんなすげー魔法なのか?」


侑に対して、近くにいた田中が聞くと、侑はにやりと笑う。


「不等価可視化干渉独立外発直列雷電光電子魔法、ちゅうとこか?」

「え、なんて」


さすがに侑はすぐに魔法を特定してみせた。

雷電魔法は字の通り、電気と雷を操る魔法である。雷電魔法を光電子魔法と互いに干渉させながら発動した上で、可視化魔法で座標を特定し、目標に向けて独立外発魔法で同じ魔法を複数展開していき、それを直列して、魔力によるリンクをトリガーとして独立外発魔法たちを起動させていく。その連鎖が目標に向かっていき、最後に伊吹から目標に連なる干渉雷電光電子魔法が形成されることで、電磁パルス攻撃が確実に目標に当たるという仕組みだ。

たとえ対象が動いても、独立外発魔法を別の場所に立てればコースが変わる。折れ線グラフのように、点として独立外発魔法を設置して、それを直列魔法で線にするということだ。

伊吹はそれを4方向に向けて展開した。まず最も近い函館山沖の強襲揚陸艦を直撃し、青白く見える電気が船の表面を舐めるように走る。同じことが2隻の護衛艦と1隻の駆逐艦にもあたり、表面を電気が走ったところで、4隻とも沈黙した。

すべての電気系統が破壊され、電磁パルスによって通信も発電も蓄電もできず、ショートした信管が無数に船内にあることだろう。そして、乗組員たちも感電して気絶しているはずだ。

黒い壁が消えるが、もはや砲撃は来ない。残された対空砲は、上陸部隊の持つものだけとなっているだろう。艦隊の乗員たちが意識を取り戻すまで、動ける敵兵士は陸上部隊のみ。この間に、第二中隊が陸上戦闘員を速やかに掃討するのである。


「朝倉よくやった。輸送機からSIA-87を下ろす、それに乗って市街地に出るぞ」


烏養がすぐに次の指示を出すと、あわただしく全員が配置につく。伊吹はそれを見て詰めていた息を吐きだした。隣にいてくれた牛島と目が合うと、牛島は表情を緩める。


「戦争とはいえ、人を殺すことに抵抗があるのは皆一緒だ。それでも伊吹は、とりわけ平和のために活動してきたんだ、恐怖も罪悪感も当然だと思う。それはとても苦しいことだろうが……俺は、伊吹のその柔らかい優しさが、とても好ましい」

「牛島さん…」

「どうしても苦しくなったら、俺や及川や木兎を頼れ。代わりに処理してやる。逃げていい、恐れていい。こんなこと、慣れるべきものじゃないだろう」


一兵士としてそんなことが許されるのだろうか、と思う伊吹だが、牛島は本気でそう言っていた。兵士で「いなければならない」伊吹のことを、きっと誰よりも考えてくれているのは、牛島や及川、木兎なのだろう。

甘え切って寄りかかるつもりなどない伊吹だが、それでも、世界の平和を願ってきたこの手を血に染めることを恐れていいと言うのであれば、伊吹はいつまでも恐れようと思った。怪物だと蔑まれようとも、いつまでも、伊吹は世界の平和のために生きたかった。それを理解して尊重してくれる牛島たちのこともまた、守れるような人間でありたいと思うのだ。


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