第三話: the 2nd Battle of Hakodate−10
第二中隊はその後、別の輸送機から降ろされた装甲車2台に分乗した。ソウルでも活躍した、孤立空間魔法装甲車だ。ここから函館山を下り、市街地に出てから小隊ごとに分かれて陸上戦力を掃討していく。占領された函館市を4つに分けて実施される予定だ。
まず装甲車は山を下りてから、ロープウェイの山麓駅の正面の道を十字街駅に向けて飛ばす。路面電車の軌道の段差など感じないのは、タイヤがあまりに重厚だからだろう。すぐにこの街の中心的な場所である交差点に差し掛かる。まず最初のポイントがここだ。2台目に乗っていた第一小隊がまず車を降りて、それに伊吹も続く。残りのメンバーを乗せて、2台の車はさらに通りを市電に沿って北上していった。
第一小隊と伊吹が担当するのは、国道571号線以南、函館競輪場以西の市街地だ。ちょうど、砂州部分にできた函館の中心地である。作戦領域名「NR函館駅エリア」と呼称され、最も人口が集まり戦闘が危険であるため、フォローとして伊吹がついている。道路に降りてすぐ、伊吹は索敵を開始した。すでに緑の島にいる陸上部隊がこちらに接近しており、函館山の南側山麓の立待岬からも市電に沿って敵の戦車部隊が来ている。また、全日本旅客鉄道NRの函館本線函館駅前には敵の宿営地がホテルと駅に跨ってつくられていた。
そして、周辺の市街地には無数の民間人が建物に隠れている。こちらを窺っているようで、市街地ではところどころ、出歩いたり車で家に帰ろうとしたりと外に出ている者もいた。
「チッ…こちら朝倉、十字街駅交差点より索敵。民間人が建物の窓際に集まってる、衝撃波に気を付けるように。戦争慣れしてねぇにもほどがある…」
『聞こえてるぞ朝倉少尉。まあいい、各員戦闘時には留意しておけ』
戦闘中だというのに窓際にいる人々に伊吹がぼやくと、無線に入っていたようで烏養にたしなめられた。ばつの悪い思いをしていると、二口が「怒られてやんの〜」とからかってきた。腰のホルスターに手を伸ばすとすぐに黙る。二口は茂庭に小声で怒られていた。伊吹が再び索敵に集中すると、そろそろ交戦が始まる領域に差し掛かろうとしていた。
「緑の島から1個小隊接近中、一本海側の道に距離150。谷地頭線沿いから戦車2、歩兵1個小隊、こちらは距離500ほどっす」
「ありがとう、朝倉。総員、戦闘じゅん、」
「助けてください!国防軍ですよね!?」
「こっちでーす!!」
溝口が指示を出そうとしたその瞬間、伊吹たちの方へ叫びながら中年の女性たちが走ってきた。後ろからぞろぞろと市民が続いている。カーブを描く大通りに面したレトロな建物、まちづくりセンターからだ。焦った溝口たちが慌てて手を振って建物に戻るよう指示するが、聞いていない。占領された恐怖が一気に解き放たれてしまったのだろう。
「っ、溝口中尉、北からの部隊が走り出しました、間に合いません!」
伊吹もすぐに北から迫る部隊に注意を向けると、声を聞いて走り出したようだった。もうすぐに通りに出てくる。
「防御陣営!!!」
溝口が叫ぶと、小隊はすぐに出てきた人々を建物に強引に押し込めながら孤立空間魔法を展開させる。軽く悲鳴を上げる人々を無視して、伊吹も女性を無理やり引きずってエントランスから中に押し込んだ。直後、交差点に発砲音が立て続けに響き渡った。機関銃だ。銃声は建物に複雑に反響し、町の中を音が響きながら満ちていく独特の反響音が空に轟く。まちづくりセンターの中にいた人々の悲鳴が上がった。
なんとか全員を建物に隠すことができたが、防戦の形になってしまった。建物を標的にされると自由に動けない。一応、孤立空間魔法は建物の道路に面する部分を覆っているが、南からは戦車が接近している。面倒だな、と思っていると、ロビーに押し込められたすし詰め状態の人々の中から怒声が響いた。