第三話: the 2nd Battle of Hakodate−12


黒い壁に向かって銃撃が続く中、鎌先と伊吹は連れ立って道路に飛び出した。同時に鎌先は孤立空間魔法によって二人の前に壁を構築し、銃撃を弾く。そのまま進んでいき、市電のレールが足元に見えるあたりで止まる。伊吹は透視によって敵の位置を確かめた。

伊吹はそれを頼りに、MP7の銃口だけを壁から出して発砲を開始した。途端に、両手に重く反動がのしかかる。それに耐えながらタタン、タタンと連続して敵を狙い撃つ。すぐに半分を外さずに倒した。


「うわ、ノーミスじゃん」

「…まぁ、魔法だけでやってくわけにもいかない場面は想定済みっすから」


周囲の建物の窓際に市民がいる以上、爆発や衝撃波は出せない。そのため、純粋にサブマシンガンだけで戦うほかなかった。こうした場面は想定済みであり、だから全員がサブマシンガンとハンドガンを携行しているのだ。

さらに鎌先と場所を入れ替わり、反対側から銃口を向ける。すぐに敵から発砲があったが、伊吹による射撃の方が早かったようで、聞こえる銃声はほとんどなくなった。生き残った一人が、何かを投げる動作をしたのを透視で確認すると、「手りゅう弾確認」とだけ告げる。鎌先はそれを聞くと速やかに上部にも壁を設けて、二人の頭上で爆発した手りゅう弾を防いだ。

すぐに伊吹が再度射撃を行うと、ようやく全員道路に倒れた。流れ出た血が市電のレールの溝に溜まっていく。


「クリア、壁解いて大丈夫っす」

「了解。にしても、ほんと鮮やかだな。文民上がりとは思えねぇ」

「……完全な怪物には、なりたくなかったんすよ。怪物って呼ばれても、それを否定できなくても、少しでも人間らしくありたいって、そう思っただけっす」


人間らしく振舞うだなんて、とんだ妖怪人間だ。しかし事実で、伊吹はせめて人間らしい方法ででも相手を倒せるようにと銃の訓練にも打ち込んだ。ただそれだけだった。

すると鎌先は、軽く背中を叩いてきた。その手は一瞬ヘルメットに伸びたので、頭を撫でようとしてヘルメットに気付きやめたのだと分かる。


「…お前は、この中隊の中で一番人間くせぇよ」

「……くせぇは余計です」

「はいはい」


苦笑した鎌先とともにまちづくりセンターの方へ戻る。慰めなどは得意ではない男だ、鎌先は本心でそう言ってくれたのだろう。心がじわりと温かくなるような、そんな気持ちになるには不釣り合いな戦場ではあったが、伊吹はそれを大事にしようと思った。



***



その後、南から接近していた戦車と歩兵を先行して倒し、十字街周辺から陸上部隊はいなくなった。それを確認し、第一小隊は交差点中央で溝口の指示を待つ。そこに、無線が飛んできた。


『こちら”Takao”、「七重浜駅エリア」の掃討作戦完了』


声の主は直井で、第二小隊が国道5号線以西・国道100号線以南の作戦エリアで任務を完了したという報告だった。占領地北西部の区画で、函館港の北側一帯や市立病院、2つの鉄道駅などを含む。それに対して、烏養から無線が入った。


『了解。”Zao”へ、状況を報告せよ』

『こちら”Zao”、国道100号線一帯の封鎖網は解除。これより五稜郭へ向かう』


第三小隊の牛島が返答する。第三小隊は国道5号線、571号線、100号線、83号線に囲まれた、占領地北側一帯の「五稜郭エリア」を担当している。敵は国道100号線を占領地の境界線としていたため、解放作戦のために重要なエリアだった。担当地域としては2番目に広く、最も広範な領域をあてがわれた第四小隊は、函館競輪場以東、国道83号線および879号線以南の「湯の川・空港エリア」を担当している。


『了解した。”Mitake”は現在、湯の川2丁目交差点付近の掃討を完了し、函館空港、およびトラピスチヌ修道院へ向かう。”Takao”は五稜郭へ向かい”Zao”と合流しろ。”Kurikoma”の方はどうだ』


第四小隊の隊長でもある烏養が返答無線の中で状況を報告したあと、第一小隊に振ってきた。すかさず溝口が応答する。


「こちら”Kurikoma”、十字街周辺での戦闘を完了。これよりNR函館駅の宿営地を破壊する。朝倉少尉の派遣は必要か」

『そうだな、俺たちは空港と修道院で手が離せない、朝倉少尉を先に函館駐屯地に向かわせてくれ。函館駅での戦闘完了後、駐屯地へ行って少尉と合流しろ』


溝口は伊吹に視線をやる。いけるか、ということだろう。伊吹は特殊即応官、こうやってすぐに対応することこそが重要な仕事だった。


『こちら朝倉、了解しました。すぐに向かいます』


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