第三話: the 2nd Battle of Hakodate−14
伊吹はMP7を下ろして他のメンバーを見渡す。目が合うと、オレンジ頭の青年が「日向翔陽です!」となぜか敬礼しながら言った。隣の女性もてんぱっているのか、「谷地仁花であります!」と敬礼した。さすがにそれはおかしいと理解しつつも、流れには逆らわず、最後の一人も敬礼して「山口忠です…?」と名乗った。
「……朝倉伊吹、少尉です」
仕方なく伊吹も敬礼して返すと、困った顔をしていたからだろう、明光がくすりと笑った。そちらを見ると、兄貴らしい包容力のある笑みを浮かべた。
「はは、ごめんね、特兵連だからってちょっと気を張っちゃったけど、そんな必要なかったね」
「…まぁ、そっすね。それより、月島さんと君らはなんでこんなところに?」
「分かった、簡潔に説明するね」
明光が語るところによると、今日は明光がオフだったらしく、遊びに来ていた日向たちを空港に迎えたときに侵攻が始まったらしい。明光はすぐに駐屯地に車を走らせたが、巡航ミサイルによる攻撃で駐屯地が爆発した衝撃で事故を起こし、気を失っていた。
一方、日向たちは明光に言われて北側へと徒歩で逃げようとしていたが、ミサイル攻撃を受ける市街地を見て、兄を心配した月島についてくる形で全員市街地に戻ってしまったらしい。彼らが明光の車と運転席で気を失う明光を見つけたころには函館の占領は完了しており、意識を取り戻した明光がこのスーパーに全員で隠れたとのことだ。
「恥ずかしながら、俺は足を怪我してしまって…俺を置いて離れるように言ったんだけど、聞かなくて」
「別に徒歩だったら兄ちゃんが一緒でも一緒じゃなくても同じでしょ」
ツンツンとして言う月島だが、家族が心配で、とにかく一緒に脱出する方法を模索していたようだ。
「じきに、駐屯地には小隊が到着して大規模な戦闘になります。ここも危ないから離れて欲しいんすけど」
「あ、あの!」
すると日向が遮った。そちらを見ると、緊張した面持ちよりも心配を前面に出して伊吹を見つめた。目を合わせて話そうとするタイプらしい。
「俺たち、月島の兄ちゃんと一緒に、友達に会いに来たんです、同じ連隊に所属してるやつなんですけど!」
「…駐屯地は壊滅状態だ。ざっと見たところ生きてる兵士はいなかった」
それを聞いて日向は息をのむ。谷地も口元を手で押さえる。しかし日向は諦めず、「それでも、」と言葉を続ける。
「それでも、影山を、探したい…こっそり瓦礫の中、探しにいけませんか!?」
影山という友人の兵士を探している日向たちは、なんとかして施設に潜り込もうとしているようだ。戦争を舐めているのか、と伊吹は目を細めて睨みそうになったが、相手は民間人だと思い留まる。目をそらすに留め、伊吹は彼らに背を向けた。
「ここは警戒区域に指定されてる。避難行動をとらないことは法律に反する違法行為だ。許可できない」
「あんたの許可がなくても俺は行きます」
「ご遺体を探すのは戦闘後にしてくれ」
「まだ死んだと決まってない!」
「敷地内に生きた人間は敵軍だけだ」
「なんでそんなこと分かんだよ!」
食い下がる日向を、慌てて明光が止める。魔法を使えば分かる。それを明光は知っている。伊吹が言う以上、駐屯地には生存者がいないと分かっているため、明光は唇を噛みしめながら日向を止めていた。
「…あなたは連合軍に派遣されるようなエリートだから分からないでしょうけど、兄ちゃんも、僕らの友達も、駐屯地にいた兵士たちは全員、互いを大事にして絆で結ばれてます。探しに行きたいと思うのは当然でしょ。人の心ってものがないんですか?」
月島のその言葉を聞いた瞬間、伊吹は体の内側がさっと冷える感覚に陥った。人の心がないのか、それは伊吹が最も恐れる類のものの言葉だった。ティクリートの怪物と呼ばれる伊吹は、せめて人間らしくあろうと努力してきたが、魔法によって可能性がゼロであることを理由に彼らを止めようとした。「危険だから」という理由だけでよかったはずなのに、つい、伊吹は無造作に、「もう死んでいるから」なんて言い方をしてしまった。
さすがに明光に月島は窘められ、明光も「ごめんな」と伊吹に謝る。伊吹は背を向けているのを向き直ってそれを受け取るべきだったが、彼らに面と向かうことが極端に恐ろしかった。どんな目で自分を見ているのか、想像するだけで怖かったのだ。