第三話: the 2nd Battle of Hakodate−15
ちらりと腕時計を見ると、まだ時間はある。探して結果を伝えてから避難誘導するくらいはできるだろう。いや、するべきだ。
怪物ではないと、自分は人間だと言いたいからこんな偽善まがいのことをするのかもしれない。いずれにしても、伊吹の「心無い」言葉が彼らを傷つけたのも確かだ。
「……影山って人の特徴は」
「へ……」
「今から探す。特徴教えてくれ」
伊吹がようやく後ろを振り返り、目線を合わせないようにしながら尋ねる。日向はすぐに、スマホを少し弄って画面をこちらに見せてきた。
「こいつ!目つき悪いやつ!影山飛雄っていうんスけど、今日はオフだったからどういう格好してんのかは分からない、デス」
画面の中には5人で撮った写真があって、ここにはいない黒髪の青年を日向は指さした。整った顔立ちの青年は確かに逞しく、身長は月島よりわずかに低い190センチを切ったくらいだろう。これだけ分かれば十分だ。
「…ちょっと待ってろ」
そう言って伊吹は目を閉じて可視化魔法を展開し、俯瞰透視を行う。敷地内の瓦礫や半壊した建物の中などくまなく探していくが、形を保った遺体の中にはいない。ミサイルの直撃によって破片しか残っていない可能性ももちろんあるのだが、少し拡大して周辺の建物にも透視を広げた。住宅街の建物には、ちらほら民間人が残っているようだったが、基本的には避難しているのか人気が無い。その中で、内環状線を進んで右手にあるドラッグストアに、3人ほどアサルトライフルを携えた人物が見えた。まさかと思ってそこに集中すると、ビンゴだった。影山が陸軍の制服を着てドラッグストアの中にいた。
「……月島さん、影山は一等陸曹ですか」
「えっ、そうだけど…」
「見つけました。駐屯地挟んで反対側、内環状線沿いのドラッグストアです」
階級章まで確認して聞いてみると、裏も取れた。これで間違いない。恐らく上陸部隊との戦闘の中で、市街戦を避けたか、負傷して撤退したかのどちらかだ。
「なんで分かるんですか、そんなこと…」
思わずといったように聞いてきた山口をちらりと見る。びくりと震えた様子に、なぜか怖がられてしまっているのだと分かる。もともと伊吹は目つきが悪いため、こういうことはよくあったが、月島の言葉もあって少し傷ついた。そんな資格はないと分かっていてもだ。伊吹は内心で自嘲しつつ、山口には答えずに踵を返す。
「競馬場から大通りを避けてドラッグストアまで行く。どうせ逃げるにしても北側に行く必要がある、ついてこい」
「……どういう風の吹き回しですか」
すると月島がじとりと言ってきた。恐らく年下であろう民間人の月島相手に、伊吹は依然として恐怖を感じている。目を見ることはおろか振り返ることすらできなかった。
「…そろそろ時間がない。月島さんは足を怪我してるし、行くなら行くぞ」
「い、いいんですか…!」
「よっしゃ!」
谷地と日向の喜ぶ声が聞こえる。足を引きずる明光は、伊吹の隣に立って済まなさそうにした。
「足引っ張ってごめん」
「…問題ねっすよ。俺が全員守ります」
MP7を抱えなおすと、伊吹はホルスターからハンドガンであるグロック19を明光に手渡す。
「普通科連隊と支給品は同じっすから、使えますよね」
「うん、問題ない。ありがとう。そっちのMP7は残数平気かい?」
「…まぁ、予備っすから」
ぐっと右手を握ってみせると、明光は頷いた。あくまでこれは予備、伊吹の主力は魔法だ。
後ろに日向たちがついてきているのを確認してから、伊吹は透視によって確認しながら外に出た。
もしかすると、この駐屯地から空港や五稜郭へ向かう援軍がいるかもしれないと警戒してルートを選んだが、駐屯地内は動きがない。兵士たちは持ち場を離れずにいる。ただ、歩いている最中に変わるかもしれないため、競馬場を通る大回りを予定通り進むことにした。
競馬場を突き進んで桜が丘通りに入り南下していくと、やがて目的のドラッグストアが見えてきた。特に援軍に見つかることもなかった。ヘルメットの無線からは、第四小隊が函館空港を解放してトラピスチヌ修道院に向かっていると報告があっただけで、第一小隊は函館駅で、第二小隊と第三小隊は五稜郭で依然として交戦中だ。