第三話: the 2nd Battle of Hakodate−16


伊吹を先頭に、日向、谷地、山口、月島、明光と縦に続く。常に伊吹は銃口を周囲に向けて索敵しながら道路を歩いた。しんがりの明光は、いざというときに邪魔にならないよう後ろにいるという意味もある。

しかしそういったことは杞憂に終わり、何事もなく到着したドラッグストアに正面から入る。内環状線は打ち捨てられた車があるだけで、人の気配はまったくしなかった。遠く五稜郭や函館駅からは銃撃戦の音が聞こえてくるが、それだけで、この辺りの住宅街はまったくもって静かだった。人々が息をひそめているということもある。こうした静けさを日本の街中で感じること自体が不気味だった。

自動ドアを開いて中に入ると、室内に一気に緊張感が満ちた。恐らく中にいる3人の警戒だろう。声を出さずにいるあたり、敵を疑っているらしい。周囲に敵がいないことが明らかであることもあり、伊吹はこちらから声を出して警戒を解くことにした。


「…国防軍です!影山一等陸曹はいますか!」

「ッ、はい」


驚いた気配のすぐ後に、商品棚の奥から人影が現れた。迷彩服を着てアサルトライフルを両手に携える背の高い男性たちである。透視通りの姿だった。

低く明瞭な声とともに姿を現した影山に、日向たちの「影山あ〜!!」という歓喜の声が響く。駆け寄っていく日向と谷地に、影山は涼し気に整った顔に驚いた表情を浮かべていた。


「日向、谷地さん、なんでここに」

「空港に着いてすぐこーなってさぁ!お前は無事か?!」

「あぁ…、月島さんも無事だったんスね」


影山と目が合った明光は「足やっちゃったけどね」と苦笑する。月島と山口もホッとしたように息をついていた。

影山の後ろの二人は、見かねて伊吹の前に出てきた。じゃれている影山たちを押しのけて、少し警戒している様子だった。


「金田一勇太郎、二等陸曹です」

「国見英、同じく二等陸曹です」

「朝倉伊吹、国防陸軍所属、連合軍統一特殊兵科連隊の特殊即応官。少尉だ。中隊規模で函館解放作戦を連合国および日本政府から指示され展開してる」

「特兵連…!」


二人に続いて名乗れば、二人と聞こえていた影山がひどく驚いたようにして、そして金田一と国見は後ずさった。しかし影山はぐいっとこちらに詰め寄ってくる。


「あの!」

「うお、」

「もう特兵連の募集って終わってるんスか!?」


一気に目の前に近寄られ、18センチほどの高いところにあった目がすぐ正面に迫る。慌てて伊吹は一歩退くが、影山は爛々とこちらを見つめていた。


「……編成は完了してる。なに、入りたかったのか?」

「はい!でも募集してんの知ったときには募集期間終わってて!」

「……、金田一、国見。こいつは…あれか」

「アホっス」


何を言っているんだと伊吹が呆れて聞くと、間髪入れずに金田一が答える。それを聞いて日向と月島が噴出した。「なんだと」と影山が怒るが金田一も国見も知らぬふりをした。明光は苦笑いを浮かべている。

すると国見は、首をかしげてこちらをじっと見つめた。


「あの、ほんとに使えるんですか」

「ちょ、おまえな!」


なにを、と言わなかったのは、民間人がいるからに他ならない。グレーな聞き方だったため、金田一が少し焦っていた。


「…じゃなきゃ、中隊規模でこんな任務にあたるわけねぇだろ。もうすでに軍艦4隻は沈黙、北部と南部は鎮圧済み。あとは中央部から東部にかけての市街地だけだ」

「4隻全部が…」


国見はそう疑っていたわけではないようだが、現実離れした実績に実感も沸いていないようだった。だがそれはどうでもいいことだ。影山と無事に合流した今、日向たちはこの3人に任せ、伊吹は本来の任務通り駐屯地の掃討に取り掛かるべきである。


「俺はこれから函館駐屯地の上陸部隊を全滅させる。影山、金田一、国見の3名は負傷した月島さんと一緒に、民間人4名を連れてこの先の高校に避難しろ」

「ひ、一人であの数を掃討するんですか…!?」


戦った後にここまで撤退したのであろう金田一は、伊吹の指示に慄く。リアクションが分かりやすいヤツだ。伊吹は安心させるように、金田一の胸元をぽす、と叩く。


「軍艦4隻を機能停止させたのも俺一人だしな。特兵連ってのはそういうところだ。戦闘中、絶対に駐屯地の外に被害は出さないし、一人も敷地から出さない。安心して逃げろ、お前らごと乃木町より西は守ってやる」


そう言い残し、伊吹はドラッグストアの入り口へと走り出す。後ろで日向たちが慌てるような声がしたが、すでに伊吹は戦闘モードだった。敷地外に被害を出さず、敷地から誰も逃さず、敷地内の遺体を傷つけない。細かな魔法の連続になるだろうが、それができない伊吹ではなかった。こういうときにこそ「人間離れ」しなければならないのだから。

自動ドアから出るとすぐに風気魔法を足に纏って浮き上がる。15メートルほど空中に上れば敷地が見渡せた。まずは俯瞰した状態で一気に数を減らす。

グラウンドに散らばる兵士たちや宿営地に狙いを定めると、それらすべてに爆轟魔法を展開した。駐屯地に向かって右腕を突き出し、広げた手のひらをぐっと握り締める。途端に、駐屯地の敷地の10か所以上で爆発が発生した。ほんの一瞬だけラグをかけてから爆音が住宅街に轟き、砂ぼこりが敷地から立ち上る。悲鳴や怒声がうっすらと聞こえた。

すぐ直下の駐車場から、驚く日向たちの声がする。浮いている伊吹に驚いているのだろう。ちらりと見ることすらせず、伊吹は駐屯地の方へと空を駆け抜けた。

やはり、こちらを見上げている目を見ることが、怖くてできなかった。


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