第三話: the 2nd Battle of Hakodate−17


最初の巡航ミサイル発射から約5時間、函館解放作戦が始まって第二中隊が函館山に着陸してからわずか1時間。すべての敵の拠点を破壊したあと、北海道内の陸軍が到着して生き残った敵兵の捕獲と電磁パルスで機能を喪失した軍艦の鹵獲が開始された。

市役所の機能が回復すると、函館市より市街地に防災無線が流された。


『こちらは函館市役所です。敵軍による占領状態から解放されました。繰り返します、函館市は解放されました。これより陸軍による残党兵士の捕囚を開始します。陸軍が安全を宣言するまで、市民の皆さんは動かず待機していてください』


駐屯地にいた伊吹は、そのアナウンスが流れるとすぐに街中から歓声が遠く聞こえてきたことに驚いた。街中で人々が声を上げるという経験がなかったからだ。無線は繰り返し、小規模な戦闘が起こる可能性があるため外に出ないよう呼び掛けている。伊吹は町全体を透視してみたが、逃げおおせた兵士はほとんどおらず、東部でトラピスチヌ修道院から逃げたらしい者たちが田んぼのあぜ道や林の中に潜伏している程度だった。しかしそれも、第四小隊に合流した第二小隊が手伝い始めたのか、弧爪による透視で残党狩りが始まっている。全部隊は一度駐屯地に集合することになっているため、引き続き、伊吹はここで待つことになる。

伊吹の爆破によって、敷地内にはまだ砂ぼこりや兵士から火が上がっているところがあるものの、遺体が埋まっているであろう瓦礫の方に変わりはなかった。

すると、内環状線の方から「朝倉さーん!!」という声が聞こえてきた。振り返ると、日向たちが走ってきている。月島、山口、金田一、国見もいる。明光と谷地は高校に置いてきたようだ。日向たちが伊吹のすぐ正面まで来る前に、伊吹は一瞬だけ風気魔法で浮き上がって敷地の門まで移動して迎える。ちょうど着地したところで、日向たちが伊吹の前に立ち止まる。


「防災無線聞いてたかお前ら」

「俺らは軍人なんで。それより、ほんとに一人で掃討したんスね」


影山はさらりと伊吹の指摘を交わす。友人とはいえ日向たちまで伴って来るとは褒められたものではない。


「まぁな。それより、金田一も国見も、日向たちまで連れて外出んのは危ねぇだろ」

「でも、朝倉さんが守るって言ってくれたんで」

「一人も逃がさないって言ってたじゃないですか」


しかし金田一も国見も、伊吹の言葉を使って正当化してくる。そういう問題ではないのだが、事実でもあるので、伊吹は黙ってしまう。仕方なくため息だけついてそれ以上の追及をやめる。それを察したのか、国見が口を開いた。


「他の部隊はどこにいるんですか?」

「函館駅と五稜郭から二個小隊、空港とトラピスチヌ修道院から二個小隊がこっちに向かってる。ここが合流地点だからな」

「すぐ帰投ですか?」

「その予定」


短く返すと、伊吹は日向たちから視線を外して、破壊された施設の方を見遣る。つられて影山たちもそちらを見て、表情を曇らせた。


「……遺体の数からして、第28普通科連隊で生き残ったのはお前ら含めてごく僅かだと思う」

「そう、ですか」


金田一が目を伏せる。月島が言っていた通りで、彼らの強い絆は、こんなにも容易く永遠に断ち切られてしまった。巡航ミサイルが直撃して爆発したのだ、むしろよく生き残った方である。


「…助けてやれたら、良かったんだけどな。ごめんな」

「え……」

「動かせる分だけだけど、山積みにされてた人たちと、瓦礫からすぐに出せた人たちは、奥に寝かせてる。埋まってる人や、その、直撃を受けた人たちは、悪い、プロじゃねぇから迂闊に出せなかった」


変に瓦礫を動かすと別の場所が崩れかねない。それによって遺体が傷ついてしまうことを懸念して、伊吹は埋まっている人々を出してやることはできなかった。

すると、月島が静かに声を発した。


「なんであんたが謝るんですか。間に合わなかったのはあんたのせいじゃないでしょ」


嫌味のようで嫌味ではない。明光への態度からしても、きっと優しい心の持ち主だ。先ほどの言葉も、あれは伊吹に非があった。一方的に、伊吹が怖がっているだけなのである。伊吹は声が震えないように注意しながらゆっくりと答える。


「……助けられる力を持ってた。なのに、助けられなかった。人を助けて守ることができなきゃ、ほんとに怪物になっちまうのに、それができなかったことが、悔しいんだろうな。そんな俺を、だれかに許して欲しいのかもしれねぇ。…ほんと、浅ましいな」


あれだけ人を殺しておいて、怪物のくせに人を助けることすらできない自分をこの期に及んで許して欲しくて思わず謝ったのかもしれない。そう思うと、自分がひどく矮小に思えて仕方なかった。


「…でも、俺たちのこと、助けてくれました。影山のことも」


しかし、日向は落ち着いた、だがはっきりとした声でそう言った。思わず僅かに高い位置にある日向の目を見上げると、日向はニカッと人好きのする笑顔になった。


「めっちゃかっこよかったっス!ありがとうございました!!」


純粋な気持ちだけでつくられたその言葉は、まっすぐに伊吹の心に伝わる。そうだ、自分だけで魔法を使って誰かを直接助けたのは、これが初めてだ。感謝されることをしたことは事実なのだと教えてくれた日向の笑顔に救われたような気になって、それこそが魔法なのではないかとすら思う。


「…俺こそ、いろんなことに気付けた。お前らのこと助けられてよかった。ありがとな」


日向に返せるような笑顔など作れない伊吹だが、へたくそなりに表情を緩める。戦争はまだこれからも続く。それでも、今日得たことは、きっと自分の身と心を助けてくれるのだろう。


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