第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−2
突然、空にヒュンという空気を切り裂くような甲高い音が響いた。一瞬でフェードインとフェードアウトをした音が消えた直後、駅ビルに炎が上がり、その一瞬後に爆発音が通りに轟いた。さらに一瞬遅れて爆風が吹き付け、やっと悲鳴が聞こえてくる。
「わっ!」
「おわぁ!!!」
作並と黄金川の悲鳴が聞こえたが、吹き付けた風によって目が開けられなかった。すぐに風はやんだものの、通りを走る車が急停止したことで玉突き事故が起こり、その一台がすぐ近くのガードレールに激突、フロントガラスの割れる音と鉄のひしゃげる音が響いた。
さらに今度は、ヒュンという音とほとんど同時に南の旦過駅が爆発した。茶色い煙が上空に吹き上がり、すぐ後に爆音と爆風が通りを駆け抜けてくる。それらが届く直前に女性の甲高い悲鳴が聞こえたが、爆音と風が吹き付ける轟音で聞こえなくなる。同時に、通り沿いのビルすべてから埃がふわりと舞い上がり、歩道に散っていく。爆風と埃によって通りは茶色い霧に包まれた。
ようやく音が耳に届き始めると、まず悲鳴、そして怒号と絶叫という人の普段聞くことのない恐ろしい声が聞こえた。さらに、爆発の衝撃で防犯機能が作動したのか、無数の車の甲高い警報音が街中で反響している。
「作並!黄金!大丈夫か!」
「僕は大丈夫!黄金川君は?!」
「大丈夫だ!」
互いに埃を被って頭や肩が白くなっている。周囲の人々や車もそうだ。頭上の平和通駅からも悲鳴が降り注いでくる。
そこへ、旦過駅の方から人々が走ってきた。走る者のほかに、歩く者やよろよろとふらついている者もいる。皆一様に、頭や腕から血を流していた。大きなガラス片が刺さった女性もいる。吹上たちよりも埃で全身白くなっており、出血や肌の剥けた部分が赤くはっきりと見えていた。
駅が崩壊したためか、平和通駅と旦過駅の間の高架部分が遅れて崩れ落ち、コンクリートがぶつかり合う乾いた轟音が煙の中に轟いた。
「とりあえず離れるぞ!」
吹上が言うと黄金川と作並も頷く。3人で東へと路地に入って走り出すと、どんどん煙が薄くなってくる。日の光が通るようになり、居酒屋などの看板もはっきりと見えるようになった。他の逃げ惑う人々と一緒に走っていると、両側から建物にいた人々が出てきて、こちらを見てギョッとする。埃を被って白くなっている姿は、海外のニュースでしか見ない姿だっただろう。
すると、背後から重くコンクリートが破断する轟音が聞こえてきた。何かと思って振り返ると、平和通駅が崩壊し、こちらに向かって傾いていくのが見えた。片側の支柱が崩れ、東側に向かって駅が倒れようとしているのだ。ホームの屋根と壁の隙間から中の様子が見える。ホームにいた人々がバランスを崩して倒れ、滑っていき、見えなくなる。その直後、駅は完全に横倒しとなって道路に衝突し、ガードレールや信号を歪ませ車を押しつぶし、コンクリートを抉った。その重なり合う音が轟轟と繁華街に満ちて、一斉に人々の悲鳴が上がった。
ようやく街中に、救急車や消防車のサイレンが無数に響き始める。この路地にも救急車が入ってきて、平和通駅へと向かっていく。
繁華街の店主たちは慌てて通りへと走っていき、救助を手伝いに向かう。逃げる人、助けに行く人、だれかを探す人、目的の異なる人々が右往左往としてごった返す街の中を、3人はとにかく東へと進み、浅香通りに出た。
平和通りから一本横の大通りでしかないにも関わらず、こちらはいつも通り車が流れて人々が心配そうに煙に包まれる平和通りや駅前を見つめていた。ここまで到達した白い埃だらけの者たちは、通行人やコンビニの店員に声を掛けられている。
そんなところへ、今度は別のサイレンが鳴りだした。津波警報に似たようなサイレンだ。
『こちらは北九州市役所です。ただいま、北九州市全域に、空襲警報が発令されました。ただちに最寄りの地下、もしくは頑丈な建物に、』
ゆったりとしたアナウンスが流れ始めた直後、空に飛行機よりも高く速い音で空を切る音が接近してきた。とてつもない速さでフェードインしてきた轟音が、吹上たちの頭上を一瞬で通り過ぎてフェードアウトすると、西の空に炎混じりの大きな黒煙が立ち上って防災無線がぶつりと切れた。数秒遅れて、ドン、という爆発音が街に響いていく。まるで花火か雷のようだ。
「あっちは市役所の方だ…」
地図を見ていた作並がつぶやく。無線が途絶えたのは、市役所が爆撃されたからだ。
ここにいる全員の頭の中に、シリアの変わり果てた姿が浮かんでいることだろう。
今、ここは、戦争の中にある。
それを意識するには、あまりに遅すぎた。