第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−3


函館解放1時間前、北九州市門司区・門司港駅前。

北九州市の中心部である小倉駅から北東に離れた門司区は、門司港レトロという近代建築で知られる観光地である。多くの観光客が訪れ、関門海峡大橋が雄々しく美しく関門海峡を横断する。改装を終えたばかりの洋風の駅舎は今、半壊して一部から火災が発生し、消防車が消火に当たっている。駅舎からは全体がシートに覆われた担架が次々と運ばれてくる。

その光景に一瞬怯んでから、白馬芽生は自分を叱咤してまた歩き出す。
前を歩く上官はそれを見て口を開いた。


「沖縄は政府と米軍が民間用シェルターを配備したおかげで民間人の犠牲はあまり多くない。ま、沖縄県知事は自分で建設に反対していたくせに真っ先にシェルターに行こうとして、結局間に合わず県庁舎と運命を共にしたがな」

「…先に外交努力をしろって言ってた知事ですよね」

「外交と国防はとても近い政治領域だが、まったく別だ。どっちが先とかじゃない、どっちも平行してやるのが国政だ」


二人の会話の声は大きく、背中に背負った短機関銃もガチャガチャと音を立てるが、街中に鳴り渡る救急車や消防車、警察のサイレンや逃げ惑う人々の悲鳴とざわめき、そして崩れた建物から救助を行うレスキュー隊の怒声、そういった音という音がかき消した。

小倉駅周辺でのミサイル爆撃が始まってすぐ、北九州市と対岸の下関市での空爆も始まった。繰り返し爆撃機や戦闘機が上空を通過して、市街地中心部への爆撃が行われている。もちろん、国防空軍や米軍の戦闘機や、国防陸軍の地対空兵器、洋上のイージス艦や山口のイージスアショアによって迎撃されたものも多いが、第二次世界大戦以来となる本土空爆によって北九州市と下関市は恐慌状態となっていた。

国防陸軍小倉駐屯地に所属する、第40普通科連隊の二等陸曹である白馬もまた、門司区の港湾部における救助活動と、もし上陸部隊が現れてもいいように警戒要員として作戦行動の中にあった。

門司港駅周辺での空爆が始まったのは3時間前。小倉駅への最初の攻撃の際に関門海峡大橋もミサイルで崩落していたが、市街地への攻撃はそれから2時間が経ってのことだった。そのころには、火災が発生している小倉駅方面から逃れてきた人々が門司港まで到達しており、彼らは2度目の爆撃を受ける形となってしまった。

軍港である呉や横須賀と違い、この街は工業都市であり、完全な民間人の街だ。


「国際法も守れないのか…!」


白馬は奥歯を噛みしめながら、赤いレンガの塊に成り果てた旧大阪商船の建物での捜索に加わる。もとは教会にも似た赤いレンガの壮麗な建物だったが、空爆によって天井ごと崩落し、二次爆撃で保っていた壁も崩壊した。レンガの山となった建物の内部にいたと思われる5名と連絡が取れていない。

あからさまな民間人への攻撃に、白馬は悔しさで力任せにレンガをどかす。崩落した関門海峡大橋の下では、落下した多くの車に乗っていた人々の捜索が海上保安庁によって行われている。港湾の反対側には高層マンションがあるが、戦闘機からのミサイルによって中層部に穴が開き、つぶれたフロアからカーテンや布団など生活を感じさせるものが垂れ下がっている。

一度爆撃がやんでから、今は1時間半近くが経っており、救助活動が本格化して病院はけが人で溢れかえっている。帰宅困難者たちの帰宅も本格的に始まっており、小倉方面からは車や徒歩で市民が移動してきている。対岸の下関も今は爆撃が止まっているようで、下関駅周辺はもうもうと黒煙が立ち上っているのが見えた。

港湾の海に面したデッキには多くの人々が身を寄せ合い、被害を受けた街の様子を眺めたり、救助を手伝ったり、家族を探していたりと混み合っている。その合間に救急車が何台も止まっており、ひっきりなしに入れ替わっていた。付近の病院が総出で対応しており、多くの医療関係者が港湾部で負傷者の応急処置を行っている。災害時のような光景だ。戦災という言い方をすれば、紛うことなき災害である。

すると、対岸の下関市の方から、大量の花火が打ち上がるときのような連続した爆発音が響いてきた。確かめようと海を見ると、対岸の市街地がフラッシュを焚いているように無数の光が輝いていた。街全体のあちこちにピカピカと光るそれは爆発音をともない、徐々に街が煙に覆われていく。


「……クラスター爆弾か…禁止条約があるのに……」


呆然とする白馬の見立て通り、それはクラスター爆弾であり、光は主たる爆弾から飛散した小さな爆弾が市街地のあちこちで破裂していることを示している。非人道的な兵器だ。それが母国で使われている事実に怒りが沸くのと同時に、同じ光景を座学で見たときに、その舞台だったシリアに何も思わなかったことを思い出す。
文字通りの対岸の火事だ。そうやって世界を傍観してきた日本への、天罰だとでも言うのだろうか。


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