第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−5
伊吹たちが函館を解放してすぐ、陸軍からは北九州への派遣を要請された。いまだ爆撃が続く関門海峡への攻撃を辞めさせろとのお達しだ。第二中隊はすぐに、函館駐屯地に降り立った真っ黒な輸送機に乗り込むと、一路九州を目指した。
伊吹は影山たちに軽く挨拶をしてから輸送機に乗り込み、函館を後にする。合流した他の小隊とともに、北の海峡から南の海峡へと飛び立つ。
輸送機はジェットエンジンを搭載した最新鋭の魔法兵器であるため、函館から北九州まで1時間とかからずに到着した。往路こそ機内は無言だったが、戦闘をした直後であることもあり、各自戦闘のことをフィードバックしていた。初めての実戦であったため、烏養は隊員どうしの情報共有を重視している。伊吹は隣に座った田中と話していたが、やがて作戦空域が近づいてくると、烏養が立ち上がる。すぐに傾聴姿勢になった全員を見渡し、烏養が口を開く。
「これより第二中隊は関門海峡掃討作戦に入る。俺たちの任務は主に二つ。市民の救助活動、そして空爆からの市街地の防御だ。今のところ上陸部隊は報告されていないが、可能性はゼロじゃねぇ。機内の備品で必要なモンは補充しておけ。第一小隊は下関市内、第三小隊は小倉駅エリア、そして第四小隊は門司港エリアを担当する。第二小隊は対馬西方沖にいる軽空母の破壊。市街地担当の三つの小隊は、敵の航空戦力を必ず海上で落とすこと。直井、状況共有」
烏養が各担当を述べると、続いて直井が同じように立って現在の状況の確認を始めた。函館に来るときと同じで、二人はそういう担当をするのだと決まっているようだ。
「敵は対馬沖に停泊している軽空母から爆撃編隊を関門海峡に飛ばしている。空爆開始から6時間半が経過した現在、北九州市小倉北区、戸畑区、門司区と下関市彦島、東大和町、竹崎町は壊滅的な被害を受けている。関門海峡大橋をはじめ、本州と九州をつなぐ橋・トンネルはすべて破壊された。高速も新幹線もだめだ。コンビナートや工場、小倉駅前、下関駅前を中心に大規模な火災が発生。つい先ほど、小倉北区では今日4度目の、門司区では2度目の空爆が起きたようだ」
「死者数は」
明らかになる被害状況に、痛々しいほどの沈黙が落ちる。それを割って、静かに溝口が訪ねた。直井は一瞬黙ったあと、「分かっているだけで2500人以上」と答えた。函館での民間人の死者は500人あまりであるため、すでに5倍だ。ろくに救助活動も進んでいないであろう、小倉駅や下関駅の周辺ではもっと多くの数が亡くなっているはずである。事態の深刻さに、全員が拳を握り締めた。
直井が下がると、烏養が座ったまま張り詰めた声で指示を出した。
「まもなく着陸態勢に入る。まずは細江新町のコンテナヤードに着陸して第一小隊を下ろし、次に風師1丁目の空き地に第四小隊、続いて末広2丁目のホームセンターに第三小隊を下ろす。最後に第二小隊は対馬沖へ。着陸用意!」
今回は基本的には救助活動の支援が主要な任務となる。伊吹の透視が生きるだろう。また、固まっても意味がないため、各自が市街地に散会する形をとる。より直接的に人々に魔法が目に入ってしまうだろうが、すでに敵軍は魔法兵の存在を函館で知ったため、もはや機密にするという国防軍の方針は事実上なくなった。あとは公表するタイミングを整えるだけだ。
まずは下関市側の海沿いにあるコンテナヤードでハッチを開いて第一小隊を下ろしてから、再び飛んで対岸へ。そして門司区南部の鹿児島本線沿いにある空き地で第四小隊を下ろし、伊吹はここに加わった。侑がまだ可視化魔法の範囲を町全体に広げられないため、透視のフォローのために伊吹が合流する。
函館からわずか1時間ほどで北九州市に降り立った伊吹は、気温の違いに驚く。温暖な空気はしかし、海峡の両海岸で発生している火災によって焦げ臭いにおいが満ちている。全員が下りて輸送機がまた飛びだっていったところで、烏養は全員に向かって声を出した。
「俺と尾白、赤木、宮双子、上林は南側の小森江駅、門司駅、手向山周辺の市街地に展開する。諏訪、野沢、昼神、朝倉は門司港中心に北側一帯へ行け。赤木、上林、昼神は防御担当だ、航空戦力に注意しろ。侑、朝倉は可視化魔法で救助者捜索と爆撃へのアラート役だ。空襲警報に遅れを取るなよ。解散!」