第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−6


伊吹は諏訪、野沢、昼神とともに鹿児島本線に沿って北へと走り、門司区北部の市街地である門司港駅周辺を目指した。港町地区、栄町地区方向からは大きく黒煙が立ち上っている。けたたましい救急車や消防車のサイレンが街中に響いていた。

渋滞する道路で車の間を縫って走りながら、諏訪が全員に聞こえるよう声を張る。


「損壊率から考えて、一番被害がひどいのは港町地区だ。朝倉少尉は門司港駅周辺、国道3号線西側の港町地区へ。上陸時に動けるよう、昼神はその北側で国道3号線より西側の東港町、浜町、東本町地区を担当。俺は中心部で国道3号線より東側全域、野沢は旧門司一丁目交差点より北側一帯の沿岸部から関門海峡大橋方面を頼む」

「了解。俺の可視化魔法が必要になったら無線お願いします」

「頼むね伊吹〜。上陸部隊が来たら、報告は烏養さんにだけオープンでやれば交戦していいんですよね?」

「そういう解釈だと思うよ」


諏訪は烏養不在時に指示を出すことが多く、しっかりとして冷静な頭脳を持った人物だ。階級で言えば伊吹の方が上だが、基本的に伊吹は諏訪の言うことはそのまま聞くことが多かった。ただ、報告・指示の正規の流れにはいないため、何かあったときには諏訪ではなく烏養の指示を仰ぐ。

そうやって簡単に担当だけ決めてしまえば、あとは作戦行動に入るだけだ。清滝高架橋下交差点より、伊吹は国道199号を引き続き門司港駅へと走り、昼神たちは国道3号線へと分岐していく。ここまで来ると、周囲は空爆によって混乱する市民の喧騒で満ちており、火災による焦げた匂いが空気中に漂っている。サイレンも大きくなっているが、駅前の方は怒号が飛び交っている。二度目の空爆が起きたのが数十分前、ほぼ1時間前のはずだが、爆撃直後のような狂騒だった。


伊吹が駅前に着くと、煙とまではいかないが埃が舞う広場に多くの人が横たわっていた。並べられた人々の合間を慌ただしく医者や看護師が走り回り、口々に専門用語を叫んでいる。頭まで毛布に覆われた者は遺体だろう。全体の三分の一は毛布が全身に被さっており、広場にはおよそ80人が横たえられていた。中には消防士や陸軍の制服も見える。明らかにずっとここで応急処置が行われていたようには見えない。広場の向こうには、天井が崩落して壁だけとなった門司郵船ビル、全壊した旧大阪商船があり、奥にある旧門司三井倶楽部の洒落た建物だけが姿を保っている。海を挟んで対岸に見えていたであろう高層マンションは完全に全壊して巨大な瓦礫の山と化しており、トロッコ並木道の方からは煙が上がっている。

崩れた様子から鑑みるに、恐らくこの駅前自体は最初の空爆で破壊された部分で、高層マンションや並木道の方は先ほどの空爆を受けたのだと思われた。

伊吹たちは救助活動を手伝うことになってはいるが、かといって消防や警察に合流するよう指示されているわけではない。あくまで魔法を使って勝手にやれとのことだった。

伊吹は可視化魔法によって透視を開始する。そろそろ他の3人も担当地域に到着しているだろう。


「こちら朝倉、諏訪さん、今いる栄町交差点に面したスーパーに6名が生存。野沢さん、観光線ノーフォーク広場駅に3名。昼神、分かってると思うけど高層マンション跡に16名、そっち最優先」

『諏訪、了解』

『昼神りょうか〜い』

『野沢了解。当該駅より南はクリアだった?』

「はい。そっちは橋やトンネル周辺に集中してます」

『おっけー』


伊吹は指示を終えると、自分も透視によって見えた瓦礫の下敷きとなった人々のところへ急ぐ。駅前に気を取られていたが、この辺りは救助された人々を処置している場所だ。要救助者は並木道のあたりに集中している。

ここまで来ると、もう感覚がマヒするな、と伊吹は走りながら独り言ちる。分かっているだけで2500人が亡くなっているとのことだが、恐らく実際は万単位だろう。あまりに多くの遺体が当然のようにそこら中に転がっている廃墟の街は、もはやそれが自然の景色のようで、脳が違和感を感じていない。戦闘があった函館よりよっぽど、戦場然りといった様相を呈していた。

海峡プラザまでやってくると、並木道の様子を見て何が起きたのか合点する。

ここで、周辺の救護活動を行っていたところ、空爆があったのだ。瓦礫の合間に見える医療道具やヘルメット、青い服の数々に、凄惨な現場だったことを知る。すでに多くの生存者が助け出された後のようで、通りには人がほとんどいないが、伊吹は海峡プラザの壁沿いに瓦礫の山をかき分けるように進む。


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