第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−7


そして建物が完全に崩壊した区画まで来ると、その壁の瓦礫の下に改めて透視する。瓦礫の下には、1メートルほどの空間があり、そこに4人もの生存者がいた。そのうち一人は陸軍のようで、なんとたった一人で瓦礫を下から支えている。

いきなり瓦礫をどかすのは危険なため、伊吹は近くの小さな瓦礫を破砕していき、中の生存者が見えるようにする。こぶし大の瓦礫を破砕していくと、光が差し込んだのか、中の4人がこちらを見てきた。見上げる視線と目を合わせる。


「大丈夫か!」

「っ、げほっ、大丈夫です!」

「今、お前らの上にある瓦礫をすべて吹っ飛ばす!そこの民間人3人は目を閉じて頭を腕で隠すんだ、できるか?!」

「はい!」


返事を聞いてから、伊吹は今度は瓦礫を必死に下から支えて落ちないようにしている大柄な隊員に声をかける。


「そこの二等陸曹!今お前が支えてる瓦礫もどける、耐えられるか!」

「…っ、いけ、ます…!」

「あと少しだから頑張れよ!目ぇ閉じてろ!」


伊吹はそう言ってから、周囲の瓦礫すべてに照準を合わせる。そして、それらすべてを風気魔法によって浮かせた。強い風によって中にいる4人は目を閉じている。そして瓦礫を一気に、元の海峡プラザの建物の瓦礫に向かって風によって投げ捨てた。コンクリート同士がぶつかる乾いた音が響く。4人の方を見遣ると、支えていた兵士がふらりと体を傾ける。慌てて伊吹はその体の下に入って支えた。身長は200センチはあるのではないだろうか。非常に背が高くがっしりとしている。海軍には向かないだろう。


「もう大丈夫だ、立てるか」


他の民間人3人に呼びかけると、目を閉じていたのを開けて見上げてくる。自分たちを覆っていた瓦礫すべてがなくなっているのを見て驚いていた。


「い、いったいどうやって……」

「……特兵連、ですよね」


すると支えている兵士がしゃがれた声で聞いてきた。紺色の迷彩服を見てすぐに分かったようだ。


「正解。連合軍統一特殊兵科連隊所属、朝倉伊吹、少尉だ」

「……白馬芽生、第40普通科連隊、二等陸曹、です…」

「ずっと瓦礫を支えてたんだな」

「そ、そうなんです!僕たちのこと庇って…」


答えた3人の中で最も背の低い青年が心配そうに白馬を見上げる。他の二人も背が高く、揃って190センチは超えているかもしれない。なぜこうも背の高い人間が集まったのか、と伊吹は軽く驚くが、伊吹より背が低い青年を見て少し安心した。3人とも見た目に怪我はなさそうで、頭に直撃したらしい白馬だけが負傷している。


「3人とも歩けるか」

「は、はい。黄金川君と吹上君は大丈夫?」

「大丈夫……」

「だ、大丈夫!作並も平気か?」

「怪我とかはないから…」


背が低い青年は作並、寡黙そうな方は吹上で金髪のうるさそうな方は黄金川というらしい。


「白馬は俺が引き受ける。3人は、」


避難所に、と言おうとしたところへ、無線が入ってきた。怒鳴るような声がいきなり聞こえたため内心で驚きつつ、緊急だと分かってすぐにヘルメットの無線に耳を傾ける。


『こちら”Zao”!沿岸部にて上陸部隊を確認、交戦中!』


声の主は澤村だ。牛島が無線に出られないとき、澤村が代わりに無線を取ることが多かった。牛島は戦闘中ということだろう。


『上陸部隊を乗せたとみられる潜水艦は門司港方面に接近してる、”Mitake”は注意しろ!』

『こちら”Mitake”、門司駅西側の沿岸より上陸部隊を目視!侑!』


澤村の無線を受けたアランが慌てて呼びかける。侑を呼んだのは索敵を求めるためだ。烏養が出ないのは状況を無線で注視しているのだと分かる。


『こちら侑、俺も確認したでアラン君、潜水艦は門司港へさらに北上しとる。門司駅西岸で上陸した部隊は赤煉瓦プレイスにおるで』

『こちら烏養、アランは迎撃。治と赤木は沿岸部を警戒しろ。侑は引き続き索敵と救助者の捜索にあたれ。朝倉聞こえるか』

「はい」


烏養から無線で呼ばれたときにはすでに、伊吹は透視によって接近している潜水艦を捉えていた。伊吹たちの可視化魔法を前に、ステルス潜水艦は無意味だ。すぐに、潜水艦を出た兵士たちが第一船溜から上陸してくるだろう。海峡プラザの瓦礫を挟んですぐ近くに上陸してくることになる。もう僅か数分しかなかった。白馬を支えている伊吹は、周囲の人々を守りながら戦うことはできない。


『様子はどうだ』

「接近中の敵兵を透視。第一船溜から上陸してきます」

『了解、そちらは朝倉に任せる』

「分かりました。それじゃ昼神、さっそくで悪いが…ちょっと、助けてくれ」


伊吹としては、単に壁担当になってくれというだけの話だった。しかし、伊吹が「助けてくれ」などと言うことは今までなかったからか、無線の向こうが途端にざわついた。まずは案の定、及川が無線に割ってくる。


『大丈夫なの伊吹!?』

『何かあったのか伊吹、俺が行くぞ』

『え!?俺も対馬から直行しようか?!』


さらに続いて牛島、木兎までもが無線に入ってきた。呆れていると、同じように呆れた様子の烏養が答えた。


『おいそこのイニシャルバカトリオ。黙ってろ』

『伊吹に助けを求められたのは俺なんで〜。今いくね伊吹』


そして昼神も緩い口調で煽るため、今頃及川がキレて岩泉に殴られていることだろう。

イニシャルセブンのうち、特に過保護な及川と牛島と木兎の3人がこうなることはよくあり、きっと聞いている他の隊員たちも呆れて苦笑しているはずだ。


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