第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−8
無線で昼神を呼び出したときにはすでにこちらへ向かっていたはずなので、恐らく間もなく昼神が到着する。一方、もうすぐそこにまで敵が迫ってきており、昼神より先に上陸されそうだった。少し手荒なやり方で迎え撃つ必要があるかもしれない。とにかく周囲の人々に被害を出さないようにしなければならなかった。
「…作並、黄金川、吹上、で合ってるか?」
「え、あ、はい」
「俺から離れるなよ。あと、少しだけこいつ頼む」
伊吹は支えていた白馬を背の高い吹上と黄金川に預ける。二人とも何とか支えることができそうだった。
「頭打ってるからあんま動かさないように。それから……ちょっと、びっくりさせる」
「へ……」
作並が伊吹の言葉を理解する前に、伊吹は透視によって上陸を確認する。海峡プラザの廃墟内には生存者も遺体も、少なくとも伊吹の正面にはなく、また建物と海との間にも人はいなかった。ちょうどいい。伊吹は瓦礫に意識を向けると、それを爆轟魔法によって吹き飛ばした。一気に爆風に乗って大量の海峡プラザの瓦礫が飛ばされ、兵士たちに直撃し海へと突き落としていく。爆発音にあちこちから悲鳴が上がった。
伊吹がまっすぐ手をかざした直後に、その方向に瓦礫が吹き飛んだからか、見ていた3人は呆然としていた。
まだ上陸した敵は半数程度残っている。すぐにこちらへと銃撃を開始したが、残しておいた瓦礫の影に隠れる。隠れながら、今度は透視によって座標を特定し、敵のいる場所だけに爆発を起こした。敵の悲鳴が上がる。これで8割は倒しているが、まだ上陸してくる者たちが海中にいるようだ。
そこへ、昼神がようやく到着した。走ってきた昼神が伊吹たちの近くまで来ると辺りを見渡す。
「お待たせ、あれが上陸部隊?」
「あぁ。こいつら頼む」
「了解、隙見て離脱させればいい?」
「頼んだ」
「はいはい。じゃあ、ごゆっくり」
そう言って昼神は孤立空間魔法を展開した。ガス灯通りに沿って、海から僅かな陸地だけを残して巨大な黒い壁が出来上がる。これによって、敵の銃撃では市街地に届かない。
作並たちは自然ではありえない黒い壁に目を見開いている。市街地からも、人々のどよめきが聞こえてきていた。伊吹は風気魔法を足に纏って浮き上がると、一気に壁を飛び越して海側に飛び込んだ。そこには、上陸したものの行き場がなくなった敵兵士たちが見える。
ここでどんな魔法を使っても、この壁は通さない。伊吹は銃弾が届く前に、こちらを見上げた兵士たち全員を、衝撃魔法で吹き飛ばした。
悲鳴を上げて飛ばされ海へと落下していく兵士たち。空いたスペースに着陸すると、残った兵士に光電子魔法でレーザービームを貫通させていく。一瞬にして上陸した者たちを掃討すると、海の中に意識を向けた。
上陸しようとしている兵士は残り8名、先ほど吹き飛ばした兵士が13名。それぞれの座標を特定すると、ごく小規模な爆轟魔法を起こした。これだけ離れてかつ視界に直接入れられていれば、かなり細かいことができる。兵士たちの脳漿だけを頭蓋骨内で爆発させ、海を汚さないようにした。
途端に、水面に21名の兵士の遺体が浮き上がってきた。ぷかりと力なく漂う彼らを見て、ぶるりと震える。市街地をなるべく汚さず、人々が見てもダメージを負いにくいようにと視覚的な配慮をしたのだが、自身の行った残酷なやり方に、背筋が冷たくなる心地がした。
嫌だな、と、自分でやったくせに思い、手袋から出ている指先を握り締めると、昼神から無線が入った。
『伊吹?終わった?』
「…あ、あぁ、終わった。各位、朝倉より、門司港の上陸部隊は掃討完了」
答えるとすぐに壁が消えた。一瞬でことを済ませたため、恐らく作並たちはまだ通りにいるだろう。海峡プラザの瓦礫を横切って元居た場所に戻ると、やはり昼神が白馬に肩を貸して立っており、作並たちも移動しようと立ち上がっているところだった。
「お疲れ。さすがだね」
「……あぁ、助かった。白馬、大丈夫か」
「……、ありがとな、」
白馬は意識を朦朧とさせながらも、伊吹に目を合わせて礼を言ってきた。それを聞いて、冷えていたような心地がしていたものが、少しマシになった気がした。思わずこちらが礼を言いたくなったが、白馬は理解できないだろう。代わりに、血のにじんだ頬をそっと撫でた。
「よく頑張ったな。ひとりで、瓦礫支えて民間人守って。すげぇヤツだよ、お前」
魔法を使える伊吹でもできないことだ。生身で大量の瓦礫を支え続けて民間人を守って見せた白馬は、まるでヒーローだ。そう言うと、白馬はうっすらを笑みを浮かべて頷いた。
「…よし、じゃあ昼神、頼むな。マンションの方は俺が行く」
「分かった」
昼神は鋭い、伊吹が少し様子が違うことに気付いているはずだが、何も言わないでいてくれた。沈黙がありがたいこともあるものだ。昼神に白馬と作並たちを任せると、伊吹は崩壊した高層マンションの方へと向かう。人を殺した同じ手で人を助けに行くのか、と、ぼんやり思った。