第四話: the 2nd Shimonoseki Campaign−9
伊吹が門司港での上陸部隊の掃討を終え、引き続き救助活動を行っていると、透視の際に見慣れた人物が港町交差点にいるのが見えた。周りをきょろきょろと見渡している様子が見えて、伊吹はさすがに気になって連絡することにした。無線を個人宛に絞って呼びかける。
「なにやってんすか、牛島さん」
『伊吹か。どこにいる』
「俺が行きます、そこにいてください」
『了解した』
なぜ牛島が持ち場を離れてここにいるのだろうか。それに、誰かを探している様子だった。伊吹は活動していた区画から走って交差点へと向かう。1分と経たずに伊吹の足であれば到着し、牛島に声をかけた。
「牛島さん、」
「任務中にすまない」
振り返った牛島のすぐ正面に立つと、牛島は少しホッとしたようにした。何かあったのか、と首をかしげると、「マイナーチェンジだが編成変更だ」と答えた。
「変更って…俺と牛島さんで回れってことっすか」
「そういうことだ。烏養隊長からの指示が下りた。小倉の方は目処が立った、第二小隊も軽空母の破壊が終わって戸畑区方面に戻ってきている。俺と伊吹で、この区画を担当する。すでにここにいた諏訪には北へ向かってもらった」
諏訪は野沢と合流し北部を担当するということだろう。いったいなぜそのようなことをわざわざするのか分からず、伊吹は依然として訝しんでいた。牛島はそれに気づき、とりあえず歩き出す。それに続くと、伊吹の前を歩く牛島はゆっくり口を開いた。
「先ほどの無線の様子がおかしいと、俺や及川、烏養隊長は気付いていた。そこで、烏養隊長は俺を伊吹に差し向けてフォローするよう指示したんだ。あの上陸部隊が、俺たち魔法使いを拉致するためだったとも報告があったこともある」
「…なるほど。牛島さんが小倉を離れるよりも、俺が機能しないことの方が危ないと判断したわけっすね」
「…まぁ、表面上はそういうことになる。ただな、伊吹。あの人も大概、伊吹には甘いぞ」
牛島は歩きながらちらりとこちらを振り返り、ふっと小さく笑う。烏養はいろいろと言いつつ、単に伊吹を心配して牛島を派遣しただけだという。ただ、上陸部隊が魔法使いを捕えようとしていたという事実が恐らく捕虜などから明らかになったからか、各自の様子を確認して回る意味もあったのだろう。
「……魔法使いを素手で捕まえようなんざ度胸ありますね」
気恥ずかしくなって話題を少しだけ逸らすと、牛島は乗っかってくれた。「そうだな」と短く返してから、車が通ろうとしている道路で立ち止まり通過を待つ。
「枢軸からすれば、もしロシアが絡んでいるのだとして、イラクの実験施設以外で初めて明らかになった存在だ。連合軍に配備されていることを視野に入れて、こちらの研究成果を奪いたいんだろうが…命の無駄遣いは感心できないな」
「っ……」
相手が魔法使いだと分かっていながら上陸してきた彼らを、伊吹は脳漿を破壊して倒した。無駄遣い、という言葉に息を飲む。そうした機敏を、こと伊吹に関しては気付いてしまう牛島が道路を渡りながら振り返った。今度はきちんと、こちらに顔を向けている。
「どうした」
「や……なんでもねっす」
「それはなんでもない顔をしてから言うべきだ。ひどい表情をしている」
「…っ、そ、っすかね」
つい足が止まってしまう。言ってしまってもいいのだろうか、と、真摯な瞳でこちらを見つめる牛島の精悍な顔に思う。函館でのことから先ほどの戦闘に至るまで、今日の伊吹は心が揺れ動き続けて不安定になっていた。自然と目線が下がってしまい、爆撃によって飛散した小石で傷ついた歩道を眺める。
ふとそこへ、誰かの呼ぶ声が聞こえた気がした。顔を上げて耳を澄ますと、牛島も辺りを見渡している。
「…透視します」
「頼む」
可視化魔法で周囲を透視してみると、すぐ近くの小学校からだった。半壊した3階建ての校舎に、生存者がいるようだった。体育館が崩壊して避難所として機能せず、周辺住民が集まっていない。
「あそこの小学校です、行きましょう」
「分かった」
二人はすぐに、敷地がそばに見えている小学校へと走り、校庭を校舎へと突っ切っていく。無人の学校は、一度救出活動が終わったのか、だれもまだ来ていないのか分からない。壊れた様子からして、空爆を受けたのは一度目だと思われる。