第一話: City of Light−2
伊吹は見慣れた富士駐屯地の宿舎の廊下を歩きながら、見慣れない姿が増えたことにいまだに新鮮さを感じつつ、すれ違いざまに絡まれることが増えて疲れも感じるようになっていることに溜息をついた。
国防陸軍第1魔法科大隊という新しい名前が与えられた伊吹たちは、いまや日本全国、そして全世界で知られる存在となっていた。そして、大隊再編が可能になるほど、この4か月で魔法兵が増えていた。いまや、日本における魔法兵は74名、司令部の6名も加えて計80名の人員を第1魔法科大隊は抱える。
第1を銘打っているが大隊はこの一つのみで、大隊は二つの中隊に分かれる。そしてそれぞれの中隊は4つの小隊に分かれるように編成されていた。
これだけの数を揃えることができたのも、日本が世界で真っ先に魔法使いの存在を公表し、軍内部や民間人からも希望が殺到したからだ。当初は軍内部でのけものにされていた魔法兵たちは、函館解放作戦と関門海峡掃討作戦によって脚光を浴び、市民が撮影した魔法兵の姿にフィクションの世界の実現を夢見た人々がやってきたわけである。しかし民間人をおいそれと魔法使いにするわけにもいかず、そもそも軍としての素質がある者だけに絞り、そのうえで適性検査をし、陽性だった者だけが魔法使いになるための投薬を受けた。
特兵連第二中隊としての肩書しかなかった頃は41名の人員だったものが、これによって倍近い今の数字にまで増えたのである。
現在、特兵連は再編され、日本の第1魔法科大隊はそのまま第二大隊として派遣される形となっている。第一大隊は米国兵、第三大隊はEU軍から派遣されることになっているが、EU軍は事実上、特兵連には参加していない。それは、開戦から1年10か月が経過した今、戦況は西部戦線に偏っているためだ。今日はそんな戦況の確認と日本としての立場の在り方について説明を受けることになっており、隊員全員が大会議室に召集されている。
特殊即応官として中隊以下に属さない伊吹は、なんと3名の副大隊長のうちの一人にさせられているため、少し早く部屋に向かっていた。
部屋に着くと、すでに大隊長と副大隊長の残りの2名がいた。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ。いや、ほんとに疲れてんな」
「日向と影山の相手させられて…」
大隊長、烏養三等陸佐は言葉通り疲れていた伊吹の顔を見て、その答えに豪快に笑った。聞いていた直井一等陸尉と溝口一等陸尉も笑う。直井は第一中隊の中隊長、溝口は第二中隊の中隊長をしている。伊吹は一等陸尉ではあるが特殊即応官であるため、隊長職にはついていない。しかし、臨機応変に指示を出したり率いたりすることも想定されている。実際には、伊吹も小隊とともに小隊長以上の指示を受ける側として活動するが、組織上はそうなっているということだ。
そこへ、時間が近づき続々と各隊員が会議室に入ってきた。事前の指示通り、小隊ごとにきちんと決められた場所に座っていく。指示通りのはずなのになぜか雑然として見えてしまうのは、彼らの癖が強すぎるからだろうか。
まず第一中隊第一小隊”Crow”は、澤村を小隊長にし、副隊長の菅原、東峰、田中、西谷と特兵連の第三小隊だった者たちが続く。そして、新たに陸軍の一般兵士から加わった縁下力、木下久志、成田一仁、さらになんと函館で伊吹が助けた日向、影山、月島、山口もいる。
隣の第二小隊”Eagle”は、牛島が小隊長に就き、副隊長に大平、以下、瀬見、天童、山形とこちらも第三小隊のメンバーだった者がいる。新たにここに加わったのは、彼らの一つ下の代である川西太一、白布賢二郎、さらに一つ下の五色工である。この3人は空軍から転籍して来た者たちだ。
第三小隊”Owl”は木兎を小隊長として、副隊長の赤葦、そして猿杙、小見、木葉、鷲尾とかつて第二小隊だった者たちがいる。加わったのは一人、尾長渉で、民間人出身だった。
第四小隊”Seagull”は特兵連の第四小隊にいた者たちで、小隊長は諏訪、副隊長は上林、他に野沢と昼神がいる。ここに新たに加わったのは、陸軍にいた星海光来と伊吹が北九州で助けた白馬、空軍にいた別所千源である。
第二中隊の第五小隊”Leaf”は及川は隊長をしており、他に特兵連第一小隊だった岩泉、花巻、松川がいる。新たに増員したのはすべて陸軍出身の、矢巾秀、渡親治、京谷賢太郎、そして函館にいた国見、金田一。
第六小隊”Wall”も元第一小隊にいたメンバーを中心に、隊長の茂庭、鎌先、笹谷、二口、青根がおり、海軍から女川太郎、小原豊、そして民間人からはこちらも北九州にいた黄金川、作並、吹上となっている。
第七小隊”Cat”には元第二小隊にいた黒尾を隊長とし、夜久、海、弧爪が在籍。他に、海軍にいた山本猛虎と福永招平、空軍にいた犬岡走と芝山優生、民間人で函館で伊吹が庇った灰羽リエーフがいる。
最後、第八小隊”Fox”は元第四小隊に関西方面の出身者が固まっている。隊長は北信介、以下にアラン、赤木、大耳、宮侑、宮治と続き、新規は陸軍にいた角名倫太郎、銀島結、民間人から理石平介となっている。
新たに加わった民間出身の兵士のうち、日向、月島、山口、黄金川、吹上、作並、リエーフの7人はどうやら伊吹に憧れてくれたらしく、影山、金田一、国見、白馬の陸軍出身4人も伊吹の影響だと言っている。それは第1魔法科大隊の中では有名な話で、「お前が引き入れたようなもんだからお前が指導しろ」という横暴な命令を下されることも多く、よく伊吹が相手をしている。