第一話: City of Light−4
伊吹はこれまでの経緯を日向たちに理解させていては終わらないと理解し、最も重要なことが現在の状況の確認であることから、これまでの話は簡単に済ませることにした。
「イランとトルコとロシアという枢軸国、そしてイスラエルと米国とサウジという連合国。でも最初の戦いで米国はやる気がなくて、サウジは仕方なくイランを弱めるためにパキスタンのテロリストに武器を与えて代わりにイランを攻撃させた」
「ヒタイショー戦争っスね!」
日向は知っている言葉が出てくるタイミングになったからか、どや顔になる。非対称戦争、片方は正規軍で片方はテロリストというような、敵対する両者が同じ立場でない戦争をいう。サウジは国家間としての全面衝突ではなく、パキスタンのテロリストに代行させることで非対称戦争の形に持って行った。
「…、ま、正解だ日向」
「あざーす!!」
「……そんで、パキスタンのテロリストの武器は何者かに渡り、それはインドと領有を争うカシミールへの攻撃に使われた。それにキレたインドがイラン側に立って参戦してパキスタンと戦争を始めると、パキスタンと仲が良くてインドと仲が悪い中国も参戦した。こうしてパキスタンは崩壊したわけだ。中央アジアも巻き込んで広がった戦争は、この崩壊したパキスタンから流出した核兵器から世界大戦に拡大する」
伊吹は地図上で、ロシアから西方に線を引き、ダマスカスとテルアビブにバツ印をつける。
「インドが米国の説得に応じて離脱すると、戦争が終わることを懸念したイスラエルがダマスカスに核兵器を使った。報復として、パキスタンからイランを介して渡った核兵器がテルアビブに落とされた。この核兵器の使用によって、ロシアは欧米との戦争が長引くことを予想して、EUに侵攻して朝鮮戦争を再開させた」
地図上に「VS」という文字を、北欧、東欧、東地中海、中東、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、ベトナム、南シナ海、東シナ海、台湾、朝鮮半島に次々と書いていく。見事にユーラシア大陸を囲む戦線が構築された。また、ベネズエラにも印をつけるが、これはすぐに終わった戦闘なので触れない。
「こうして地域紛争は第三次世界大戦になった。そのほとんどは、第二次世界大戦から冷戦にかけて、そして冷戦後になっても解決しなかった今までの諸問題が再燃した形だな。そして、ロシアと中国は日本への侵攻を開始、お前らも知っている通り、第二次函館戦争と第二次下関の戦いで甚大な被害を受けた」
枢軸国による日本本土侵攻は、函館や北九州、下関などを中心に大きな被害をもたらした。一時占領された函館を中心に、東北・北海道での死者は1306人、そのうち民間人は601人。そして関門海峡空襲では、北九州市と下関市で死者2万854人におよび、99%が民間人だった。被害額は日本円で18兆円に達した。
「そんで今。戦線は極東から離れつつある。沖縄本島西方海戦で中国の空母が破壊され、朝鮮半島では米国、カナダ、豪州が北上して、解放された地域に日本国防軍が入ってる。北朝鮮が追い詰められて核兵器を使うことを、連合国も枢軸国も恐れてるから、このまま戦前の国境に戻る可能性が高い。中国国内でも、北京、上海、深圳、香港で暴動が起きてる以上、東アジアは一気に停戦ムードだ」
沖縄でも熾烈な戦闘があったが、通常戦力で勝利して連合国が沖縄を死守した。中国国内では、インドによってウイグルとチベットの動乱が起きている上に、第三次天安門事件が発生して内戦に近い様相を呈している。急激に継戦能力を失いつつある中国は朝鮮半島からも撤退し始め、北朝鮮の暴走を懸念する枢軸国は徐々に朝鮮戦争を停戦させる方向で動いている。
「このままなし崩し的に中国が停戦してしまえば、ロシアは完全に損する。だから、ロシアはこっちを諦めて、ついに東欧から欧州に侵攻した。現在、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリアが新たに占領され、ドイツにロシア軍が進軍してる。話によると、ロシア軍も魔法兵科を投入してるそうだ」
そして現在、東アジアの停戦気運を察したロシアは欧州へと侵攻、東欧を完全に掌握すると、ドイツ領内に侵入している。すでに首都ベルリンは陥落、ハンブルクやハノーファーも占領され、ロシア軍はベルギー方面へ進んでいた。ブリュッセルは恐慌状態、パリも疎開が始まっている。
現在の話を終えれば、烏養が立ち上がる。伊吹が少し横に避けると、烏養は地図上のパリを示した。
「
UNROTOMの管理下で、東欧占領地から脱出した日本人はほとんどがポーランドかドイツにいた。今回のロシア侵攻は突然で、両国に逃れていた日本人は大半がパリに向かってる。だが、こうも北ドイツを一気に進む以上、ロシア軍の目的はどう見てもパリだろう。恐らく、近々日本政府からパリの邦人救助の任務が下るはずだ。俺は花の都に行くのは初めてだが…こりゃ、到着した頃には地獄だろうな」
伊吹は何度かパリは訪れたことがある。さほど美しい街だとは正直思っていないのだが、しかしやはり、パリはパリだ。人類にとって特別な街だ。日本が落ち着いた今、守ることができるなら守りに行きたいと、伊吹でも思うのだった。