第一話: City of Light−5


フランス共和国・パリ14区。

上空600メートル地点を飛行するSIA-813は、最新式の直列孤立空間魔法術式装甲輸送機であり、現在連合軍統一特殊兵科連隊第二大隊を乗せていた。

日本政府の要請を受けて速やかに羽田を離陸した伊吹たちは、12時間かけてフランスへとやって来ると、この輸送機に乗り換えてパリを目指した。
すでにパリはロシア軍の侵攻を受けており、広くイル=ド=フランス全域が交戦区域に指定されていた。陸路でのパリへの到達は難しく、この輸送機からパラシュートで降下する方法しかないらしい。

各自が背中にパラシュートを背負って、後方のハッチの前に並んで待機する。まともな実戦経験は函館での戦闘くらいであり、いきなり空中降下とはなかなかに酷だ。しかしそうも言っていられない。


「間もなく降下を開始する!」


烏養の号令とともにハッチが開くと、すぐに眼下の平坦な街並みが視界に広がった。全体的に茶色い気がするのは気のせいではなく、整然としたパリの街並みらしい色合いである。
しかし、その街からはところどころ黒煙が上がっていた。そして銃声や爆発音、戦車がアスファルトを砕く音が響いてくる。間違いなく、花の都は戦場と化していた。


「降下!」


烏養が再度号令をかける。それを聞いてすぐに、第一小隊から順にハッチから飛び降り始めた。春の青空と黒煙の合間に、濃紺の迷彩服を纏った兵士たちが落ちていく。
道路の車が点のように見える高さから落下し始めた伊吹は、すぐに市街地から対空砲火が始まるのを確認した。空中で落下する兵士が無防備だったのは昔の話で、あらゆる弾丸は自動展開された孤立空間魔法によって弾かれた。これは自動展開型のシールド兵器であり、対象の周辺1メートル以内に飛び込んでくる銃弾や砲弾を真っ黒な壁によって弾くものだ。

このシールド兵器の名称はINEXIA-94、独立外発孤立空間魔法術式シールドといい、通称イネクシアと呼ばれる。
この兵器によって、単独での作戦行動の幅が広がったが、この魔法が識別できるのは銃弾や爆風などのみであり、魔法そのものを防ぐことはできない。
しかし降下している伊吹たちへの砲撃を防ぐにあたっては絶大な力を発揮している。誰一人として地上からの攻撃に当たることはなく、すでに地上のモンパルナス駅が見えていた。


『作戦通り、第一小隊はこのままトゥール・モンパルナスに突っ込みモンパルナス駅周辺を解放。第二小隊は駅構内における敵の掃討。第一小隊は掃討が完了したら、地下鉄4号線に入れ。朝倉大尉は地下鉄4号線入り口をすべてクリアにしろ』


烏養からの無線に「了解」と返してから、第一小隊、第二小隊とともに落下を続ける。他の隊は少ししてから落下する予定だ。

今回の作戦は、通常戦力の米国の連合軍派遣部隊、そしてフランス軍とスペイン軍を主力としたEU軍と英国軍も加わっている。
伊吹たち国防軍は、日本の軍として邦人救助を行いつつ、連合軍として戦闘も行うことになっていた。なぜ日本の第1魔法科大隊が派遣されているのかというと、米国の魔法科はウイグルとシリアにおり、豪州とカナダは韓国に、インドはチベットにいるためだ。そして当の欧州諸国の魔法科兵士は、ドイツ戦役で全滅している。もともと数が少なかったが、初となる魔法科同士の戦闘においては、ロシアに利があったようだ。

こうして日本から魔法科兵士が派遣されることとなり、日本は邦人救助を大義名分として他国の戦線に自軍を差し向けた。

今回の作戦コードは連合軍共通のため、英語で名付けられている。『City of Light』、日本語的に言えば『花の都』作戦である。
この作戦では、まず第二小隊がモンパルナス駅周辺を掃討する「モンパルナス掃討作戦」によって南西の補給を確保。合わせてモンパルナス駅周辺の地下鉄4号線の駅を確保して、そこから第一小隊が地下鉄内を北上しながら、4号線を占拠している敵兵を殲滅する「4号線掃討作戦」を展開する。
第二小隊はモンパルナスを連合軍に確保させてから北上しモンマルトルを目指す。

輸送機はこのあと、セーヌ川の中洲であるシテ島で第三小隊を下ろしてこの島を解放する「シテ島解放作戦」を行い、サントシャペル教会にいる邦人を救出し、シテ駅を制圧して4号線を北上する第一小隊と合流してさらに北上していく。
続いて第四小隊と第五小隊がルーヴル美術館に入って、籠城するフランス軍とパリ市警、そして閉じ込められた邦人を含む民間人を救出する「ルーヴル籠城戦」を行い、完了し次第、第四小隊はパリ東駅へ向かう。
第五小隊は1区に降下した第六小隊と合流して「1区掃討作戦」を展開、1区にいる邦人を捜索する。

第七小隊はその北側で「9区掃討作戦」を行って、百貨店やガルニエ宮殿の邦人を助けに行く。

最後に第八小隊はパリ東駅に降下して「パリ東駅解放作戦」を展開する。パリ東駅にはロシア軍の大軍勢が駐留しており、苦戦が強いられる可能性が高い。そのため、4号線を北上してきた第一小隊、第三小隊と、ルーヴル美術館からやって来る第四小隊とも合流することになっている。

一連の戦闘が終わり次第、パリ占領部隊の中枢となっているサクレクール寺院があるモンマルトルへと各隊は向かう。そこで最後の「モンマルトル制圧作戦」を行ってパリを解放するのだ。


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