第一話: City of Light−6


澤村が率いる第一小隊は降下しながら衝撃魔法などで方向を変え、トゥール・モンパルナスという高層ビルに突入していった。ガラスを突き破り、このビルを砲台のようにして高いところからの攻撃を行っていたスナイパーたちを掃討していく。
一方、牛島率いる第二小隊は下からの銃撃をものともせずモンパルナス駅前の大通りに着陸、すぐに攻撃を開始した。
伊吹はあとから続きつつ、近くに着陸した元空軍の川西に声をかけた。


「さすがのパラシュート捌きだな」

「まぁね…って、ちょっと前まで文民だったのにドンピシャで降りてきた人に言われても」

「俺や月島みたいに文民でもできるやつもいるし、ああなるのもいるぞ」


そう言ってビルを指差すと、日向がビル壁面に引っ掛かって菅原に助けられていた。


「…個人差がありますってことね」


川西は苦笑すると、銃弾によって自身のシールドが展開したのを見てすぐに近くの路駐された車の影に隠れる。なぜか伊吹も引っ張られ、川西に倒れ込んでしまった。


「う、わ、なにすんだ」

「いや、つい…牛島さんに伊吹に何かあったら殺すって言われてっからさ」

「何言ってんだあの人…」

「んー、でも実際収まりよくてかわいいね」

「何をしている」


川西が伊吹を抱き込んで耳元でそう言ったところへ、牛島の低い声が投げられた。「ヒッ」と川西は悲鳴をあげて手を離し、伊吹は牛島に引っ張り上げられた。


「大丈夫か」

「あざます…川西は銃弾を避けて俺のこともついでに隠してくれた感じです」

「そ、そーなんスよ〜」


伊吹がフォローしてやると、牛島は「そうか」と言って伊吹を抱き締めるようにしていた腰の腕を離す。そして駅の方を見て、「中隊規模が正面にいる、行くぞ川西」といつものトーンになった。伊吹もモンパルナスからひとつ北にある4号線のサン=プラシード駅を掃討することになっている。
そちらへ行こうとすると、牛島が一言低く言った。


「パリが解放されたら話がある、川西。覚えておけ」

「ひえ……」


ふざけたことを抜かした罰だ。伊吹は振り返って川西に中指を立ててやってから、地下鉄へと急いだ。


高さが6階建てほどに統一され、やたら鋭角に通りに突き出すような角家の建物が特徴的な通りを走りながら、たまに見かける敵兵を光電子魔法によって貫くことで殺していく。
躊躇なく殺しているのは、ここが戦場だからだ。きっと、一歩離れれば、函館や北九州のようにリフレインしていくのだろう。それを積み重ねて、人は少しずつ壊れていくのだ。それが、戦争だ。

伊吹は硝煙臭い空気を肺一杯に吸い込んで先を急ぐ。ここが戦場だと言い聞かせ、自分のしていることが足を止めないようにするためだ。

そうして4号線の出入り口をすべて確保すると、中に降りてホームにいる敵も倒しておく。不気味な廃墟のような駅はパリ全体で言える景色である。反対側の「Sortie」と書かれた出口からいったん地上に戻ると、ちょうど澤村たち第一小隊がやって来たところだった。

ちなみに、わざわざ第一小隊と第三小隊が合流して第二小隊を飛ばすのは、澤村たちが木兎の率いる第三小隊と相性がいいからだ。


「あれ、田中たちはどうしたんすか」

「近くのホテルをやってる。すぐに来るから、追い付いたら4号線に入るよ」


一部のメンバーがいないため澤村に聞くと、澤村は苦笑しながら答えた。恐らくいつも通り、やつらは騒がしく張り切っているのだろう。
日向や山口など元民間人組は澤村たちと行動をともにするようだ。思ったよりも冷静な様子だった。
すると、その一人である月島がこちらにやって来た。


「あの、ちょっといいですか」

「え…別にいいけど」


呼ばれたからには応じて、少し離れたカフェのテラス席に立ったまま移動する。
月島と話すのは、実は函館で出会って以降初めてと言ってもいいほど数が少なかった。訓練の中で関係する話はしたが、こうして改まるのは初めてだ。


「…僕、あなたのこと全然知りませんでした」

「あぁ…そうだろうな」

「…あなたの過去のこととか聞いて、函館でひどいこと言ったんだって気づいて…謝ろうと、思ってました」


あのとき、「人の心はないのか」と言われたときのことだ。あのあと伊吹は月島が怖くて、ずっと目を合わせることもできなかった。


「…僕のこと、怖がってるように見えました。その理由を知って、この作戦で死ぬかもしれないから、謝っておこうと思って」

「…なるほどな」


あのときも思ったが、月島はきちんと優しい心を持っている。第一小隊として訓練する中で、きっと既存の隊員から話を聞いていたのだろう。
あのあとも月島を無意識に避けていた伊吹の様子から察して、謝ろうとしてくれていた。


「……あのときのことは、俺も悪かったし、何も知らない月島が言ったことは当然だ。気にする必要はねぇよ。それに、」


ようやく、伊吹は月島の眼鏡越しの目を見ることができた。月島が理解してくれたからだけではない。
どんな伊吹でも好きだと言ってくれた人を、知っているからだ。


「誰も死なねぇ、俺が死なせねぇ。だから、俺がいるときにそんな心配しなくていい」


ニヤリとして言ってやってから、月島の薄い胸板をぽす、と叩いて踵を返す。なぜか顔を赤くしていたようだったが、伊吹はそろそろシテ島に向かわなければならない。各隊のフォローが伊吹の仕事なのだ。
風気魔法を足に纏って浮き上がると、伊吹は同じ高さの屋根と煙突が無数に乗った街並みを眺め、そして北東へと飛び出した。心なしか、体がいつもよりも軽い気がした。


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