第一話: City of Light−11


第五小隊が地上へと向かい、美術館北側のリシュリュー翼へ、第四小隊は美術館南側のセーヌ川に面したドゥノン翼と東側のシュリー翼に展開すると、伊吹は地下における掃討作戦に乗り出した。

すでに第五小隊が退却したことで地下通路のカルーゼル庭園地下部分まで攻め込まれており、伊吹はピラミッド下のエントランスへと繋がる通路で立ちはだかっていた。背後には螺旋階段があり、その後ろはエントランスだ。

エントランスそのものは地下2階から地下1階まで吹き抜けになり、ピラミッドの下を中心とする四角い空間で、エスカレーターが三方向、すなわちリシュリュー翼、シュリー翼、ドゥノン翼へと延びる。それぞれのエスカレーターは各翼の地下1階へと繋がり、そこが各翼の入り口となる。


『朝倉大尉、館長たちはダリュの踊り場まで移動完了、いつでもいいよ』

「了解」


諏訪からの無線が入ってきたことを確認すると、もはやこの地下には伊吹と敵しかいないことが明らかとなった。こちらを警戒しながらも接近してくる兵士たちを可視化魔法で透視すれば、魔力の流れが見えた。息を飲んで注視すると、どうやら北側から魔法科兵も来ているようだ。

魔法使いどうしの戦いは、まさに最初の最初、ティクリート以来となる。


「…先に歩兵を倒す」


伊吹は呟いて爆轟魔法を使用し、接近する歩兵たちの頭を爆破した。目を閉じているため、悲鳴だけが聞こえてくる。ぐ、と拳を握り締めて耐えつつ様子を窺うと、魔法科兵たちが走り始めた。魔法を向こうも感知したのだろう。

ここからは相手の魔法式を確認する必要があるため、伊吹は目を開いて俯瞰透視をやめると、目の前の視界に透視を重ねる。主観透視によって相手の魔力の流れや魔法式を見ることで先行して対応するのだ。

次の瞬間、通路の奥から伊吹に向かって真っすぐに魔力が伸びてきた。すぐに飛びのくと、衝撃波がこちらに向かってきて螺旋階段に当たり、轟音を立てて螺旋階段が倒れる。金属音とリノリウムを砕く重い音がエントランスに響いた。

伊吹は光線をいくつも通路の先に放つも、明かりが消えて薄暗い通路の先がどうなっているか分からない。

それを確かめる前に、足元に魔法式が展開される。爆轟魔法だ。風気魔法で飛び上がって、倒れた螺旋階段の上を飛びぬけてピラミッドから降りるエスカレーターの前に着地すると同時に、伊吹が立っていた場所が爆発した。パラパラと小石が落ちてきて埃が舞う。

ふと首筋がぞわりとする感覚がして、咄嗟に振り向きざまに見上げると、頭上のピラミッドに魔法式が現れていた。

このガラスのピラミッドは地下の吹き抜けの天井であり、地上からの入り口の一つだった。そのガラスに衝撃魔法が展開されようとしている。複雑な式は独立衝撃魔法、伊吹に魔力の流れを悟らせず完全に後ろを掻かれた。


「ッんのやろ…!」


伊吹は風気魔法で大きくジャンプし、シュリー翼側のエスカレーターの上がった先に向かって飛びつつ衝撃に備える。その直後、ピラミッドは突如としてガラスをすべて砕き、ガラスが割れる甲高い音が無数に共振した。エントランスに響き渡るガラスの割れる澄んだ音とともにそのガラスが床に落下する。そして、衝撃波に乗って大量のガラス片がこちらに向かってきていた。

伊吹は衝撃魔法を展開してガラス片を吹き飛ばしつつ相手の魔法を相殺する。それを終えると同時にシュリー翼側の地下1階に着地、エスカレーターの上からエントランスを見下ろした。床はガラス片によって真っ白になっており、まるで雪が積もったかのようだ。

そこへ、カルーゼル庭園側からの通路から魔法科兵たちがエントランスに入ってきた。


「おいでなすったな」


エスカレーターの影に隠れた伊吹は、爆轟魔法を一瞬で発動して彼らの頭を爆破しようとしたが、それは兵士たちの周りに現れた黒い魔法に阻まれる。


「なっ、あいつら魔法ごと弾くシールド持ってんのか…ッ!!」


EU軍の魔法科部隊が全滅した理由が分かった。敵の魔法兵器は、どうやら連合軍を上回っているらしい。今の魔法で魔力の流れからこちらの居場所を突きとめた敵兵は、こちらに向かって指向性の爆轟魔法と衝撃魔法を放ち、エスカレーターや地下1階の床に破砕魔法を展開する。

一瞬で伊吹が隠れていた場所は破壊されて落下し、伊吹は後ろに飛びのいて検札所まで後退した。しかしこれ以上はシュリー翼に被害が出る。


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